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 今回、「まえがき」はありません。
原作18巻、滋の別荘から帰ったら家族が漁村に引っ越すことになってた日が分岐です。
前作と打って変わって軽いラブコメです。
ハウスキーパーの業務内容はイメージで書いてます。
不備があったらすみません(汗)
それでは、どうぞ!
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あたしは25歳。
夜間大学の法学部に通って司法書士を目指しながら、昼間はハウスキーパーとして働いている。
つまり家政婦ね。
それもスーパー家政婦の称号を持っているのだ。

時給はなんと3000円!!
週末はなななんと、5000円なのだ!!
と、言っても週末は勉強に充てなきゃいけないから、ほとんど入れないけど。

所属は榊原家政婦紹介所。
得体の知れないおじさんが所長。
でもこのおじさん、只者じゃないのはわかる。
だって、顔の広さが尋常じゃない。
なぜなら、うちはアッパークラス専門だから。
一般人は相手にしてない。

あたしは常時、2軒を受け持ってる。
午前と午後、3時間ずつ。
それを週に5日。
6時間×3000円で、日給はなんと1.8万円!
それを月に20日だから、単純計算で36万の収入だ!!
あっはっはっは!!
笑いが止まんない!

・・・なんて言ってる場合じゃない。
もうすぐ春が来る。
春が来〜れば思い出す〜♬
・・そう、それは学費の納入。
稼がねばっ





仕事終わりは事務所に寄る決まりになってる。

「つくしちゃ〜ん!」

ヤバっ
この甘えた声は、榊原所長。
無理難題を押し付けてくる時の声だ。

「な、なんですか?」

そーっと振り向く。
と、榊原所長のニヤケ顔に出会った。

ますますヤバイ案件だ。

「つくしちゃんに超ド級のご依頼よん♩」

「はあ・・・」

「日給3万で専属になってほしいって!」

「ささささ3万!!? 30000? 三万??」

「そう! どうする?」

「はっ! あ・・・それ、1日何時間ですか??」

「仕事が終わるまで。」

「リミットは?」

「18時」

「朝は?」

「8時」

「それ、お得でもなんでもないじゃないですか! 10時間で3万なら時給は3000円でしょ。」

「そのうちの数時間てことよ。家主がいない時間が流動的らしいわよ。早く終わればお得だし、それに移動時間がないわよ?」

この所長は家庭があるのになぜかオネェ言葉・・・。

「場所は?」

「六本木のマンションのペントハウス」

「六本木かぁ・・・」

「つくしちゃんとこなら一本でしょ。」

「いや、移動手段というより、そういうとこに住んでる人間の生活ってものが・・・」

面倒。
アッパーでも年配のご夫婦とか一軒家のファミリーならすべきことは大抵が型通りで、イレギュラーは滅多にない。
でもそんなラグジュアリーなペントハウスに住んでるのはほぼ破天荒な単身者。
いつかなんてバカラのグラスがゴミ箱に捨ててあって、これは本当に捨てていいのか確認するのが大変だった。

「で、なんであたしなんですか?」

「うちのNo.1をご指名なのよぉ。」

キャバクラか!

「ねぇ、いいでしょ? 引き受けてくれるでしょ??」

榊原所長のこの様子だと、断ると厄介なことになる案件だろう。
仕方ない。

「わかりました。引き受けます。で、いつからですか?」

「わあ!ありがとう、つくしちゃん!!来週からお願いね!」



*******



月曜日、10時の約束で六本木に向かう。
最初は家主の秘書さんとかいう人が案内してくれるらしい。
秘書がいるってことは役員。
家主は年配者なのかな?

見上げるようなタワーマンションのエントランス。
服装はハウスキーパーのユニフォーム。
黒いポロシャツに黒いパンツ。
黒いエプロンは道具バッグの中。
伸ばしている髪は低い位置でひとつに束ねた。
そして左手の薬指にはシンプルなシルバーの指輪。
これもユニフォームの一部。
家事のできる未婚女性はトラブルに巻き込まれやすい。
相手がアッパークラスだからこそ、愛人の打診をされることもある。
囲う金なら唸るほどあるとかなんとか。
そっちも面倒だし、その奥さんに目をつけられるのも面倒だ。
「泥棒猫」なとど噂がたてば、働く場がなくなってしまう。
そこで榊原家政婦紹介所では、未婚女性は結婚指輪モドキをすることになっている。
あたしもこれに何度か救われた。
人妻だと食指が動かないらしい。


マンションロビーのコンシェルジュカウンターにひとりのスーツ姿の男性が立っている。

「お待たせして申し訳ありません。わたくし、榊原家政婦紹介所から派遣されて参りました、橘つくしです。」

あたしは90度のお辞儀をした。







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2019.02.24




およそ8年前、あたしたち一家は漁村に引っ越した。
英徳を辞め、地元の公立高校に転入した。
でもうちのパパは船酔いがひどくて、3ヶ月間、一度も船に乗れなかった。
そのうちに借金がかさんで、ママはあたしと進を守るためにパパと離婚した。
それであたしは牧野からママの旧姓である橘になったってわけ。


「橘さん、阿島と申します。よろしくお願いいたします。」

阿島さんはにこやかな笑顔で応えてくれた。

あたしたちは家主については具体的には知らされない。
名刺ももらわない。
それはセキュリティのためだ。
もちろん、徐々にわかってはくるが、暗黙の了解で知らないことになっている。
知らなくていいことは知らない方が自分の身も守れる。
なまじっか知ってしまうと、何かあった時に疑われて面倒なことになるから。


「では、早速参りましょう」

安島さんについてペントハウス専用のエレベーターに向かう。

「静脈認証で開くので、今ここで橘さんの静脈を登録させていただきます。」

これも最近は増えてきた。
扉が開き乗り込むと最上階の32階へ。
耳がツンと痛くなる。

「橘さんはおいくつですか?」

「25です。」

「お若いのに、もうご結婚されていらっしゃるんですね。」

阿島さんはちょっと軽い。

「ははっ」

そこは濁しておく。
嘘をつくわけにはいかないから肯定しないけど、否定もしない。
グレーがちょうどいい。


チン


32階に到着した。
エレベーターを降りるとエレベーターホールになっていて、出入り口は一箇所しかない。
つまりワンフロアに一戸だってこと。

・・・ペントハウスって広すぎでしょ。
まさか、メゾネットになってないでしょうね。
日給3万でも安いかもしれないと思い始めた。

「入るには静脈認証とカードキーです。どちらも揃わないと入れないので、紛失には気をつけてください。」

カードキーはコンシェルジュカウンターで管理している。
部屋番号と身分証明書で受け取れる。

また別の静脈登録用のカードキーであたしの静脈を登録し、阿島さんがドアを開けた。



********



・・・・・やっぱり。
メゾネットじゃん。
で?
ここに何人が住んでるって?

「ここに住んでいる人間は一人です。」

はぁぁ、出た。
破天荒単身者タイプ。

「それで、勤務時間が流動的とお伺いしましたが、時間指定はいつ、どのように、どなたからいただけるのでしょうか?」

「それはうちの秘書室長の西田から橘さんの携帯にメールでお知らせします。前日の21時までにお知らせしますので、よろしくお願いします。」

「わかりました。」

破天荒でも秘書さんがいると心強い。

「家主は男性。海外出張が多いためにイレギュラーな時間に在宅することがあります。接待のためのパーティー参加も多いため、クローゼットの管理もお願いします。」

「わかりました。」

「食事は基本的に外食です。ですので料理は必要ありません。」

マジ!?
ラッキー!!
あれが一番手間なんだよね。

「月の雑費はクレジットカードで支払ってください。橘さん名義で法人のカードを発行しますので、後ほど必要書類に記入を。」

「はい。」

「それと、ここで見知ったことは口外無用です。」

「心得ております。」

「よかった。では、ここにサインを。」

阿島さんがダイニングテーブルに一枚の紙を出した。
よくあることなので迷わずサインする。

「では、阿島さん、早速、今日からでしょうか?」

「はい、お願いします。今日は17時までに退室をお願いします。」

「わかりました。」

「それと、これが西田の連絡先です。緊急時にはご利用ください。」

一枚のメモを受け取り、丁寧にバッグの貴重品ポケットに仕舞った。



********



さあ、始めよう!
まずはこのペントハウスの全容を掴まねば。

水回りを確認する。
キッチン、ランドリー。
バスルームは各部屋についてるから部屋数を把握する。
メゾネットの1階はゲストルームが2部屋。
2階はドアが3つ。
主寝室と書斎、ゲストルームが1部屋ね。
メゾネットの場合、ゲストルームにもランクがある。
1階より2階のゲストルームの方がランクが上。
1階の部屋は使用人部屋になることもあるから。
最後に主寝室の広さを確かめようとドアを開けて一歩、中に入った。

!!!

あたしはその場で固まった。








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2019.02.25




RRRR. RRRR. RRRR. RR……


『はーい!』

「所長、橘です。」

『あら、つくしちゃん、今日から専属でしょ?』

「あの、専属の話、なかったことにして欲しいんです。」

『あら、どうしたの? 初日からセクハラ?』

「そうじゃないんですけど、どうしても断りたいんです。」

『うーん、困ったわね。つくしちゃんが断るならうちを辞めてもらわなきゃならないわ。』

「えっ! どうしてですか?」

『先方の指定はNo.1なのよ。つくしちゃんが引き受けてくれないなら、No.2を1に昇格しなきゃいけないでしょ? つまりつくしちゃんが辞めないと2が1にならないってこと。』

「そ、そんな・・・困ります。」

『でしょ? ごめんねぇ。セクハラとかなら僕も動けるんだけどねぇ。』

「…わかりました。」

榊原所長は元検事。
セクハラ問題はお茶の子サイサイで処理してくれる。


・・・・・とにかく、こうなったら、さっきもらった連絡先だ。






RR……

『西田です。』

はやっ!

「あの、はじめまして、本日より専属ハウスキーパーを務めております橘と申します。阿島さんから預かった連絡先にかけております。いま、お時間よろしいでしょうか?」

『少々、お待ちください。』

西田さんは席を外したようだ。

『お待たせしました。いかがなさいましたか?』

「あの、初日から大変申し訳ないのですが、専属を辞めたいんです。」

『何か問題が?』

「あの、いえ、それで、榊原家政婦紹介所へのNo.1の指定をNo.2にしていただけませんか?」

『・・・それはどういった?』

「No.1の指定だと私が辞めなきゃならなくて、経済的にそれはできませんので、無理を承知でお願いしております。No.2も私と変わらぬ仕事ぶりでお客様にはご満足いただいています。決して私に劣る者ではありません。」

『橘さん、でもNo.1はあなたです。1と2の間には埋められぬ何かがあるから差ができるわけです。その何かが重要なのです。』

「お願いします!!どうしても勤められません。」

『橘さん、詳しく理由を伺いたいのですが、お会いできますか?』

「・・・・はい、わかりました。でもっ、外でお願いします!!」


あたしは西田さんと六本木ヒルズの個室のあるレストランで会うことになった。



********



ハウスキーパーのユニフォームのまま、指定のレストランに入り名前を告げると個室に案内された。
西田さんはまだ来ていないようで、あたしは下座に座って待つ。
5分ほどして個室のドアが開き、一人の男性が入ってきた。

髪は後ろに撫で付け、銀縁眼鏡をかけ、シワも埃もひとつも見当たらないスーツをピシッと着こなしている。
生きた几帳面ってかんじの男性。

・・・???
なんか、デジャブ??
会ったことある??

「お待たせして申し訳ありません。」

西田さんはハウスキーパーの私にも丁寧に挨拶してくれた。

この人はデキル・・!

あたしも立ち上がって挨拶をする。

「はじめまして、本日は申し訳ありません。榊原家政婦紹介所から参りました、橘つくしです。」



頭を上げて西田さんと目が合ったとき、なぜか西田さんがわずかに目を見開いたのがわかった。

「・・・どうぞ、お座りください。」

西田さんに促されて座った。

「それで、専属を辞めたい理由を教えていただけますか?」

「あの、それが、誠に申し上げにくいのですが・・・もしかして、あの、家主は、、、」

「道明寺司です。」

!!

やっぱり。
主寝室に入った時に感じた微かな香り。
あれは道明寺だけの香りだ。
そうとはっきりしたなら、どうしても引き受けるわけにはいかない。








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2019.02.26




あたしが漁村に引っ越したのは道明寺と滋さん、そして花沢類と4人で滋さんとこの温泉から帰った翌日だった。
急な引っ越しだったけどあたし的にも渡りに船って感じで、英徳から離れるチャンスだった。
道明寺は滋さんと婚約。
みんなハッピー。
もう思い残すこともない。
あたしはF4への手紙をしたため、英徳のカフェテラスのF4ラウンジのテーブルに置いて姿を消した。

あれから8年。
両親の離婚に伴い、東京に舞い戻って7年。
まさか、こんな形でまた道明寺と関わるなんて思ってなかった。

「あの、西田さん、もしかしてあたしのことご存知じゃありませんか? お会いしたことありませんか?」

「牧野様、ですね?」

やっぱり。

「はい。もしかして西田さん、うちのアパートにいらっしゃった秘書さんですか?」

魔女が肥溜めに鶴状態になったあの事件。
魔女が伴っていた秘書がきっと西田さんだ。
あの時はメガネはかけていなかったからすぐにわからなかった。

「左様でございます。お久しゅうございます。牧野様」

「今はもう牧野じゃありませんが。」

「・・・ご結婚を?」

「・・・」

否定も肯定もしないグレーがスタンスだ。

「あの時の秘書さんが西田さんなら、この状況の不味さはお分かりになられますよね? それに、道明寺…さんにしたって、一応、知ってた人間に生活を覗かれたくないでしょうし。」

そうだよ。
あたしだったら家政婦が知ってる人間だなんて絶対に嫌だ。

「ですので、別の事務所に依頼するか、うちのNo.2を指名してもらえませんか?」

いや、だからキャバクラかよ!

「・・・・」

西田さんは無言で数秒考えた後、おもむろに携帯を取り出してどこかに電話をかけた。



「私です。」

『―――』

「いま、お話よろしいでしょうか?」

『―――』

「今日から派遣されてきた専属のハウスキーパーが常務のことをご存知の方とかでお辞めになりたがっていらっしゃいます。いかがいたしますか?」

『―――』

「いいえ、それは大丈夫です。身元は確かな方です。それは私が保証します。」

『―――』

「いいえ、ご結婚なさっているそうなので、その可能性もないかと。」

『―――!』

「はい。かしこまりました。では、そのようにお伝えします。」



あたしは顔面蒼白になっていたと思う。

「あ、あの、今の相手は・・・」

「司様です。」

やっぱりぃ〜〜〜!!

「ちょっと!どういうことですか!!」

「司様はそれでも構わない、と仰せです。」

「はぁぁ?? 知ってる人間に生活を覗かれても構わないって??」

やっぱり破天荒単身者はアタマオカシイでしょ!?

「そのような瑣末なことを気になさる方ではありません。」

あたしが気にするっちゅーねん!!

「それに、ご結婚なさっているならあの時のような問題もないわけですし。」

「してません!!これはダミーです!」


バチンッ


あたしは立ち上がって指輪を外してテーブルに叩きつけた。

「顧客とのトラブル回避のために付けることが指導されてるんです! あたしは独身です! これは大問題です!」

西田さんがあたしの言葉に視線をこちらに向けてじっと見た。
そしてありえないことにニッコリと笑ったのだ。

「隠しておけばバレません。指輪をしておけばいいだけですし。接触することもないでしょう。」

つ、通じない・・・

「あの、本当に無理です。」

あたしは座ってうなだれた。

「それは、司様が好きだから無理なんですか?」

あたしはバッと顔を上げた。

このオッサンは何を言う〜〜〜!!!

「申し訳ないんですが、そんな冗談に付き合ってる余裕はありません。」

あたしは睨みたいのをグッと堪えて西田さんを見た。

「冗談だと思われますか?」

「私は道明寺さんを好きだったことはありません。関わらないで欲しいのはそっちでしょ? あたしも関わりたくないんです! 今の平和なままでいたいんです。」

「何も関われと言ってるわけではありません。ただハウスキーピングしていただきたいだけです。仕事をしてくださいとお願いしてるんです。」

ハァ、もう無理。
通じないこと山の如し。
そうだ!

「道明寺さんのお母様はどうなんですか? あたしが近くをウロウロしてるってわかったらまたお怒りになるんじゃないですか?」

あたしは最終カードを堂々と切った。

これでどうだ!!

「社長は常々NYに在住しております。一介のハウスキーパーのことまで介入いたしませんし、もし万が一牧野様の存在にお気づきになったら、その時は速やかにお辞めいただけるように手配いたします。」

ぐぬぬぬぬ…
通じぬ!
こやつには何を言っても通じぬ!!
ハァ、腹括るしかないわけね。

「…わかりました。やればいいんですね。じゃあ、絶対に、ニアミスもしないように西田さん、連絡よろしくお願いしますよ!」


堪えきれず西田さんをジロリと睨んでやった。



*******



あたしはペントハウスに戻ってきた。
時間をロスしちゃって、すでに12時を回ってる。
急がなきゃ!

部屋数を確認したから次は水回り。

まずはランドリー
脱衣所から持ってきた洗濯物をここで洗うものとクリーニングに出すものを分ける。
クリーニングは専用のワゴンに入れたらエレベーターホールに出しておくと専門業者が取りに来てくれる。
道明寺が着ていたものだから、あの香りが強く沁みついてる。
あー、やだやだ!
さっさと終わらせよう。

次に洗うものに着手する。
色分け、洗剤の種類分け。
洗って乾燥機。
素材によって中温、低音、時間を組み合わせる。
間違うと服が台無しになる。
なんであたしがあいつのパンツを洗わなきゃいけないのよ!
・・・仕事、仕事! お金、お金!!

洗濯しながらキッチン周りの掃除。
料理してないキッチンは綺麗なもんね。
モデルルームみたい。
シンクにはコーヒーカップがひとつ置いてあるだけ。
意外。
カップを下げる常識はあるんだ。

シンク内とコーヒーメーカーを洗い、元どおりにセットする。
全体的にサッと掃除したら終了。

次にバスルーム。
今日は使ってあるのは主寝室のバスルームだけだけど、今後はわからない。

ランドリーと行き来しながら各部屋の掃除。
在宅時間が短いのか、大して汚れていない。
前任者もきっとどこかのNo. 1ハウスキーパーだったのだろう。
なんで辞めたのかな?

もう一度エントランスに行き、届いているクリーニング済みの衣類を取り込む。
最後に乾いた洗濯物を畳んで片付ける。
畳み方にも各人のルールがあるからリサーチのためにクローゼットに入る。

「ふわぁ〜!」

見たことのない規模のクローゼットに思わずため息が漏れた。
なになに?
この服飾品の数、そして質は。
そこは寝室と同じくらいの広さで、入口の壁側がシューズクローゼット、入って左右の壁にズラッとスーツ類が掛けてある。シーズン毎、色別になっている。
入口正面がシェルフになっていて、衣類はもちろん、時計、宝飾品、ニット類から帽子までが収納されている。
シャツもズラーっと掛けてある。
部屋の真ん中の柱は4面が鏡で覆われていてどこからでも自分を写してチェックできる。

あたしは圧倒されながらも各引き出しを開けて収納のルールを確認していく。
この部屋は道明寺の香りが一番濃厚で、息苦しくなる。

洗濯物を片付けたところで本日は終了。
時間は16時30分過ぎ。
どうにか間に合った。

終わればさっさと帰ろう。

あたしはペントハウスを後にした。










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2019.02.27




今日から司様の部屋には新しいハウスキーパーが派遣されてくる。
これまではタマさんがその任に当たっていたがなんせ高齢。
いい加減に引退だということになり、後任を探していた。

質の高いハウスキーパーが所属することで有名なエグゼクティブ専門の榊原家政婦紹介所にNo. 1のハウスキーパーを依頼した。

No. 1の条件は、
仕事が早い
丁寧
口が固い
聡くて空気が読める
そして、媚びないこと
自分の立場をわきまえて、決して押し出してこない人間であること。

これらの条件を兼ね備えた人間だけが、ハウスキーパーのNo. 1と呼ばれる。



今日は初日だった。
タマさん以外の人間が司様のハウスキーピングをするのは初めてのことで、どんな人物なのか興味はあった。
阿島から無事に引き継ぎを終え、働き者そうな既婚の若い女性だと報告があった。
既婚なら安心。
そう思っていたところ、未登録の番号から着信があった。
ワンコールで出ると、なんと今日から派遣されてきたハウスキーパーだった。
なんでも辞めたいと。
ものの1時間も経っていない。
しかし彼女はよほど切羽詰まっているようだった。
非常事態に私は急遽、会うことにした。


待ち合わせのレストランの個室にはハウスキーパーのユニフォームを着た華奢な女性が座っていた。
どこかで見たことがあるような・・・
彼女が自己紹介をしてその名を名乗った瞬間に思い出した。
牧野さんだ。
司様がこれまでに唯一、愛した女性だ。
なんと、ご結婚されたのか。
私はなぜか落胆してしまった。

牧野さんはどういうわけか司様が家主だと早々に気づいて、どうしても辞めたいと申し出た。
普段ならやる気のない人間に仕事を任せる私ではない。
しかし、今回はなぜか牧野さんを逃したくなかった。
ご本人の了承があればいいのだろうと思い、司様に連絡を取った。



「私です。」

『西田、何してる?』

「いま、お話よろしいでしょうか?」

『なんだ?』

「今日から派遣されてきた専属のハウスキーパーが司様のことをご存知の方とかで、お辞めになりたがっていらっしゃいます。いかがいたしますか?」

『俺を知ってるヤツ? それだけのことで? なんか怪しいヤツか?』

「いいえ、それは大丈夫です。身元は確かな方です。それは私が保証します。」

『だったら問題ねぇだろ。それとも俺が寝た女か?』

「いいえ、ご結婚なさっているそうなので、その可能性もないかと。」

『だったら俺はどうでもいい。さっさと仕事をしろと伝えろ!』

「はい。かしこまりました。では、そのようにお伝えします。」



通話が終わり、司様は気にしないと伝えても牧野様はご納得なさらない。
話の中でなんと牧野様はまだ独身だということもわかった。
私は久しぶりに顔が綻ぶのを止められなかった。
そうと分かれば絶対に辞めていただくわけには参りません。
あれやこれやと理由をつけていた牧野様も、最後の最後は腹を括られた。


牧野様をペントハウスに送り出し、社に戻った私は管理調査部に橘つくしさんの調査を命じた。
1時間後に上がってきた調査書に目を通す。

8年前に英徳を自主退学し、漁村に引っ越して県立高校に転入。
その後、ご両親の離婚で橘姓になっている。
高校卒業後、一度、就職するも夜間大学へ入学し、今は法学部で司法書士の勉強をなさっている。
榊原家政婦紹介所には20歳のときに入り、それから3年でNo. 1に上り詰めている。
母親と弟の3人で都内の2LDKに住み、母親はパートタイマー、弟は調理師の専門学校へ通っている。
交際相手はなし。

・・・なるほど。
坊ちゃん、面白いことになりそうですよ。



********



午後11時、やっと帰宅。
今日からタマじゃねぇヤツがハウスキーピングに入ってる。
辞めたいだと?
甘えたこと言ってんじゃねぇ。
俺を知らないヤツの方が珍しいのに、知ってる程度でいちいちクビにしてたら勤まる奴は日本にいなくなっちまう。

部屋に入る。
地上32階はシンと静まり返っている。
エントランスを解錠すればリビングまでのライトがつき、バスルームでは風呂を沸かし始めるようにプログラムされている。

リビングまで入って今のところ目立った瑕疵はない。
メゾネット2階の自室に入る。
ベッドメーキングも完璧。
ま、当たり前だな。
スーツを脱いでフットベンチに投げ掛ける。
この姿が一番間抜けだよな。
靴下を脱ぎそのままバスルームへ。
こっちも水滴の跡もなく仕上がっている。
No. 1というのは本当らしいな。


バスを出ればクローゼットへ。
いつもの位置に入ってるTシャツとスウェットに着替える。
収納のルールも覚えたか。
タマだと手が届かなかった位置のシェルフも片付けられていて、新入りハウスキーパーの(タマよりは)若いことを実感した。

寝る前にはバーカウンターに降りて酒を用意する。
バルコニーに出て東京タワーをしばし眺める。
先日からダイヤモンドヴェールは長期メンテナンスで消灯中。
今は昔からあるランドマークライトのみ。
でも俺はこのランドマークライトの方がタワーらしくて好きだ。
明け方まで消灯しないから、ついついボーッと見いっちまう。

寝て起きればまた朝だ。
同じ1日の始まり。
終わりのないローテーション。
俺の人生はこうして暮れていくのか。

30分もそうしてたら体が冷えてきて、グラスをリビングのテーブルに置いて部屋に戻る。
ベッドに入りヘッドボードにもたれ、寝室用のノートPCで会社のシステムにログインしてメールチェック。
こんな夜中でも新着メールは届いてる。
こいつらは仕事してんのか?
それともベッドの中で片手間にメールしてんのか?
と言いながら俺もベッドの中から返信をする。

「Light down」

俺の呼びかけで消灯する。

俺、おやすみ。







朝になり、予約した時間にカーテンが自動で開く。
光で徐々に覚醒する。

起きてウォッシュルームで身支度。
クローゼットで着替える。
よし、完璧。

階下に降り、キッチンでコーヒーを淹れる。
いつものカップに注ぎ、リビングでテレビをつけ、衛星放送でCNNニュースを流しながらiPad でメールチェック。

タマだとうるせぇがもうタマじゃねぇ。
カップはそのままにして部屋を出た。








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2019.02.28
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