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はじめまして
当ブログの主、ノナと申します。

「花より男子」原作漫画の二次小説を書いてます。
CPは×つくしです。

基本的にハッピーエンドを目指してますが、キャラのイメージを崩したくない方や、原作以外のストーリーに抵抗がある方は閲覧をお控えください。

また、作中に登場する人物、団体等については、実在の人物・団体等とは一切関係ありません。

原作者さま、および出版社さまとは無関係です。
あくまでも個人的趣味で書いておりますので、登場人物や組織・社会設定などの詳細は適当です。ご容赦ください。
また、内容の無断転載、複製、二次使用等はご遠慮ください。






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2025.01.01
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2019.12.04




日曜日の朝、つくしはまだ部屋から出てきていなかったけど、ダイニングにはすでに焼き立てのパンの香りが立ち込め、瑞々しいサラダにツヤツヤしたハムエッグ、暖かいスープと宝石のようなフルーツが並んでいた。

邸から派遣されている使用人さんは午前と午後の交代制でそれは日曜日でも例外ではない。


「高山様、ご朝食になさいますか?」

「あ、そうですね。お願いします。」

「かしこまりました。」


こんな会話にも慣れたけど、慣れていいんだろうか。


「パパ、おはよ〜」

「清佳、おはよう。」

「ママ、また喧嘩してるよ。」

「えっ?」


廊下に出ると確かにつくしの部屋から声が漏れていた。
でも今回、聞こえるのはつくしの声だけだった。


「もういい加減にして! あたしは普通の生活がしたいの! 使用人さんは必要ないし、邸にも移らない!」

「ーーー」

「誰が怒鳴らせてんのよ! そう思うならあたしの意見を尊重してよ!」

「ーーー」

「いや、そりゃわかってるよ。その気持ちは嬉しいよ。でもね、ものには加減てもんがあるの! 子供達だって混乱するでしょ?」

「ーーー」

「英徳ぅ!!? ダメ! 絶対ダメ!! それにそれを決めるのはあたしたちじゃないでしょ!? 清佳も壮介も順と悠介の子供達なんだよ? 勘違いしないでよ!!」


話の内容が手に取るようにわかった。
でもこれ以上、つくしをヒートアップさせるわけにはいかない。
俺は強くノックをした。


コンコン!!


声が止んだ。
ドアが開いてつくしが顔をのぞかせた。


「ごめん。声、漏れてた?」

「うん、つくしの声だけね。赤ちゃんに喧嘩の声ばかり聞かせちゃダメだよ。」

「うっ…そうだよね。気をつける。」


やれやれ。
夫婦ってのはどこでもいろいろあるだろうけど、男女の夫婦ってのはあんなに分かり合えないものかな。
俺と順だったら目を見てればわかるけどな。
だから今まで大きな喧嘩らしい喧嘩はしたことがないわけだし。

なんだか急に順の顔が見たくなって、俺はリビングには戻らずにそのまま自室に戻った。








結局、邸に移らない代わりに、週に4日、使用人さんが通ってくることをつくしは受け入れた。
そして外出するときは必ず車を呼ぶことも約束させられた。


「いちいち過保護すぎ! 両親学級に参加するたびに大騒ぎだよ。この先が怖い。」


司さんが出張でいない朝、つくしは俺に朝食を出しながら愚痴をこぼした。
両親学級の第3回目は新生児の世話について学ぶんだ。
これなら騒ぐことはないと思うけど、でも相手はあの司さんだ。
予想外なところから球を投げてくるからな。


「3回目は明日だっけ?」

「そう。車で行かなきゃ。ハァ、もうそれも億劫だぁ〜。」





最近のつくしの口癖は『億劫』か『面倒』だ。
もしかして……


「あのさ、つくしさ、司さんと、その……ある?」

「ある? 何がある?」

「だからさ、アレだよ。」

「??? アレ?」

「……ふ、夫婦生活だよ。」


他の家族はまだ誰も起きてなくて、このリビングには二人しかいないのに俺は口元に手を当てて、なんだか照れたような気分でつくしに囁いた。


「えっ! ちょっ…何言い出すのよ!」


真っ赤になりながら、つくしも声を潜めていた。


「面倒だ、億劫だって断ってない?」

「断ってるっていうか、帰ってきたときにはあたしは寝てるし、あいつが休みの日もあたしはすぐに眠くなっちゃうし…」

「どのくらいしてないの?」

「な、なんでそんなこと悠介に言わなきゃいけないのよっ。」

「…かなりしてないね。数ヶ月はしてないでしょ?」

「だ…だから、言う必要ないって…それに妊娠中なんだからなくて当たり前なんじゃないの?」


俺はハァァとため息をついた。
そっか、今まで清佳の時も壮介の時も、つくしにパートナーはいなかった。
だから妊娠中の交渉について考える必要はなかった。
でも今は司さんがいる。
3人目にして初めて知る壁。
それは妊娠中の夫婦生活についてだった。

俺はダイニングに座ったまま、つくしを手招きした。


「司さんが過保護な理由はそれだよ。お前が疲れてるからできないと思ってるんだ。今度、お前から誘え。」

「えーー!!…っとと。そ、そんなことできないわよ! それに、妊婦に欲情するの?」

「妊婦かどうかは関係ない。あの人にはお前しか見えてない。」

「でも、赤ちゃんがいるのに…」

「それでもスキンシップは大事だろ。無理しなくていいけど、特に司さんは初めてのことで不安なんだから、寄り添うのが夫婦だろ。」

「……わかった。」


つくしはまだ頬を染めながらも、それでもこの過保護状態から抜け出せるなら、と決意を固めたようだった。




********




その日は家事を使用人さんに任せてたっぷり昼寝をしたと言うつくしが司さんの帰宅を待っていた。


「じゃ、おやすみ。」

「おやすみ。」

「頑張って。」

「頑張らないわよっ」


つくしをリビングに残し、なんの話だ?と、頭にクエスチョンマークを貼り付けた順を連れて自室に引き上げた。








翌朝、つくしの話を聞こうといつもより早起きして毎朝恒例の起き抜け歯磨きをするために洗面に入ると、つくしが鏡の前に立っていた。


「ああ、ごめん…ってそれ!」


ブラにキャミソール姿のつくしの肌にはキスマークが散っていた。
その姿を見たのは二度目。
司さんがつくしの記憶を取り戻して、初めてつくしの部屋に泊まった朝以来だった。


「悠介っ!」


つくしがパッと手で胸元をかくして振り向いた。


「成功したんだ。よかったじゃん。司さん、喜んだだろ? なっ?」


つくしは顔を赤くしてはにかんだ。


「うん、喜んでくれた。けど、それだけじゃなかった。」




********




あたしは悠介からのアドバイスを受けて今日はお昼寝をたっぷりして司の帰りを待っていた。

司は一昨日から地方に出張だった。
今日は移動だけのはずだから早々に帰社して仕事して帰ってくるはず。
と、玄関で物音がした。
帰ってきたんだ。

あたしはリビングを出て玄関に向かった。


「おかえり。」


玄関には司が連れてきた冬の匂いがしてた。

そんな空気を纏いながら俯いて靴を脱いでいた顔がハッと上がり、すぐに半分、笑顔になった。


「ただいま。起きてたのか。」


それは、驚いたけど嬉しいって顔で、その顔を見て、今朝、悠介に言われた言葉がストンと胃に落ちた。


『特に司さんは初めてのことで不安なんだから、寄り添うのが夫婦だろ。』


この家で妊娠・出産を目の当たりにするのは司だけが初めてで、あたしも悠介も順も3回目。
悪阻も妊娠の経過も「ああ、あれね。はいはい。」って感じで受け流してた。
司にとっては疎外感があったかもしれない。
わからないことをわからないって、不安なことを不安だって言いづらい雰囲気にしてたかもしれない。

清佳の時、あたしは出産までに順と悠介に父親になるって意識をしっかり持って欲しくて3人一緒にいろいろ頑張ってた。
両親学級もちろん、日常でもお腹に触れてもらったり、妊娠線のマッサージをしてもらったり。
あたしと同じ速度で命が生まれるって自覚をもってもらおうと必死だったと思う。
それを司にはしてない。

あたしの中でいざとなったら順や悠介がいるって、どっかでタカをくくってたんだ。
あたしが頼っていいのは司だけなのに。
順と悠介の夫夫(ふうふ)は言わばお隣さん。
自分の夫を差し置いて、お隣の夫夫に頼るって完全におかしいよね。


「まだ寝なくていいのか?」


ただ今、時刻は23時40分過ぎ。
いつもならあたしはとっくに寝ている。


「いいの。今日は目が冴えちゃったから。」


廊下を歩きながらコートを受け取ろうとしたら、あたしには渡さずに自分で持って廊下を歩き出した。


「貸しなよ。掛けとくよ。このままお風呂に入っちゃったら? 着替えは出しとくから。」


すると前を歩いていた司は振り向かずに答えた。


「重いからいい。自分で掛ける。」


こんな風に、小さなことでも気遣ってくれる。
司はもうちゃんとお父さんじゃん。


「このくらい大丈夫だから。このままお風呂入ってきて。」


コートを引っ張ってその足を止めさせた。


「なんだよ、気持ち悪りぃな。またなんか話でもあるのか?」


あたしの様子が普段と違うからか、振り向いたその表情には警戒心が浮かんでる。


「話なんてないよ。たまにはいいじゃん。ほら、入っておいで。」


せっかく起きてるんだから、奥さんらしいことしますよ。
なんて殊勝に思っていたあたしに司が一歩近づいた。
廊下の灯りを司の長身が遮ってあたしが影に入る。


「なに?」


見上げて問えばさっきの素直な笑顔じゃなくて何か企んだように口角を上げている。


「一緒に入ろうぜ。」

「はぁ? 入らないよ。入ったもん。」

「もう一回入ればいいじゃん。みんなもう寝てんだろ? 誰にも見つかんねぇよ。」

「悠介たちはきっとまだ部屋で起きてるよ。それに狭いし、それに、」

「それに?」

「…とにかく、あたしはもう入ったからいい。入浴って疲れるんだからね。」


『疲れる』の言葉で司はあっさりと引き下がった。
やっぱり気にしてくれてるんだ
ということはあたしを気遣って我慢してくれてたってこと?
つまり、チャンスがあれば触れたいってこと?
妊婦だよ?
したいの?
そういう気になるの?

あたしは二人の部屋に入ってコートをクローゼットにかけ、司の着替えを脱衣所に持って行き再び部屋に戻ってベッドに座り込んだ。

ここからどうしよう。
スキンシップって、何をきっかけにすればいいの?
いきなり襲いかかられても困るんだけどな。
うーん…

その時、あたしの視界にあるものが入った。









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2019.12.03




今日はつくしと司さんが第1回目の両親教室の日だ。

両親教室のカリキュラムは3回に分かれていて、第1回目の今日は「妊婦の栄養と運動」をテーマに妊娠中の過ごし方をレクチャーされる。

両親教室が開催されるのは隔週土曜日の午前中になっている。
休みだった俺は、朝から上機嫌の司さんと早くも疲れたような顔をしたつくしを見送った。
休憩を挟んで2時間くらいだから往復を入れて3時間ほどかな。
昼過ぎには帰ってくるはずだ。

なのに、出かけてから2時間で帰ってきた。
司さんの額には青筋が立ち、つくしはため息交じりの苦笑いだ。
ドカッとソファに腰掛けた司さんをチラリと見遣りながら俺はリビングに入ってきたつくしに抑えた声で尋ねた。


「おかえり、早かったね。」

「ハァ…それがさ、」


司さんが何か無理を言い出して暴れた?と思ったら逆だった。


「ママさんたちがみんな司に釘付けでさ。みんなで前を向いてお話を聞いてた時はまだ良かったんだけど、夫婦で組んで妊婦体操するって別室に移動するときに事件が起きて…」

「何? 司さんがキレたとか?」

「違うの。ひとりのママさんがさ、司にお腹を撫でてもらいたいって言い出してさ…」




『あの、すみません。』
『あ?』
『あの、初対面の方に不躾なんですが、あの、私のお腹を撫でてもらえませんか?』
『は?』
『この子、男の子なんです。あなたみたいなハンサムになるようにあやかりたくて。』




「…マジ?」


俺は司さんにコーヒーを出し、ダイニングテーブルについたつくしにはノンカフェインの紅茶を出した。


「あたしも驚いたわよ! でも大真面目でね。さすがのあの人も驚いてた。」


そう言いながらつくしはソファで憤然とする司さんを視線で示した。


「だろうね。で、撫でてあげたの?」

「それがね、めちゃくちゃ冷たい目をして無視しちゃったの。そしたらその女性の旦那さんが怒り出して…」

「旦那が!?」

「うーん…嫉妬だったんだと思う。「うちの嫁が頼んでんのに無視するな!」って絡まれちゃって。」

「うっわ……で?」

「まさか暴れるわけにもいかないから、帰ってきたの。もうその場にいられるような雰囲気じゃなかったし、あわよくば私もって目をキラキラさせてるママさんたちと、こっちを睨むパパさんたちに囲まれちゃったし。」

「マジかよ…」

「あー、やっぱり無理なんだ。」

「無理じゃねぇよ!」


ソファに沈んでいた司さんがこちらを向いた。


「あいつら揃って馬鹿だろ。なんで俺が他人の嫁の腹を撫でなきゃならないんだよ。俺は安産の神か!? それに俺を睨むのも筋違いだろ。テメェの節操のない嫁を睨めよ!」


今回ばかりは司さんが正論だ。
正論なんだが、その妊婦さんの気持ちも少しわかってしまう。
こんなに神々しいまでのハンサム、あやかりたいと思うのは自然だよ。


「それで、これからどうするの?」


つくしが紅茶に砂糖を3杯入れた。


「つくし、入れすぎ。」

「あ、ごめん。…そうだなぁ、どうしようかなぁ。ねぇ、もう諦めようよ。」


なんとか立ち会わせたくないつくしは両親学級自体を諦めさせようとしてる。


「いいや。諦めない。オフィスに出張させる。出張両親教室だ。」

「はぁぁ!??」


司さんは立ち上がり、リビングを出て行った。




********




両親教室は司さんのオフィスに場所を移して出張形式で行われることになった。

つくしは妊娠と同時に司さんに仕事を辞めさせられていたから、両親教室の第1回目は司さんのスケジュールに合わせて平日の昼間に行われた。

今日はその2回目。
確か夫が妊婦体験をして出産の教育動画を観るはずだ。
陣痛から出産まで、際どいとこギリギリまで映し出される。
順といっしょに見た時は衝撃だった。
女に生まれなくて良かったって心底思ったもんだ。
そしてそんなことまでして俺たちの子を産んでくれるつくしに心の底から感謝が生まれたっけ。

司さんの反応はどうかな。
あの人、1回目の教室の後、道明寺社屋を含めた半径1kmの範囲を完全禁煙にしたんだよな。
自社はもちろんのこと、周囲のビルの喫煙室も潰し、路上の喫煙スペースを移動させ、全社を挙げた禁煙運動を起こして非喫煙者に手当を出すことにしたんだよ。
喫煙者が禁煙に成功したら金一封とか。


「俺の前で煙草を吸ったヤツは島流し! ああん!? 他所の会社のヤツ!? そいつも島流しだ!!」


って息巻いてたな。
面白すぎ。
だから今日はどんな反応だったのか、密かに楽しみにしてるんだ。

駅を出てそんなことを考えながら歩いていたら、あっという間に自宅マンションに到着した。


「ただいま。」


玄関に入るといつものように子供達が駆け寄ってきてくれる。


「「パパ〜、おかえり〜」」

「おう、ただいま。」


子供達の頭を撫でる。
この瞬間に1日で蓄積したストレスが消えていく。


「ねぇねぇ、パパ!」


壮介はいつも落ち着かないが今日は特に興奮気味だ。


「どうした、落ち着け。」

「司パパが変だよ! いつも変だけど、今日はいつもよりすごく変だよ!」

「え?」


司さんもう帰ってるのか?
壮介に腕を引かれてリビングに入ると…なるほど、これは変だね。

そこにはつくしのエプロンをした司さんが立っていた。






「よう、おかえり。」

「あ、はい、ただいま…です。」


ワイシャツとスラックスの上に、つくしのピンクで肩紐にフリルがついているエプロンをした司さんが洗い物をしている。

その横には戦い疲れた顔のつくしが椅子に座らされていた。


「悠介、ハァイ」


つくしは力なく手を振った。
何があった?


「えーと、今日は両親学級2回目だったよね?」


俺はカバンと上着をとりあえずソファに投げてキッチンの入り口に立った。
壮介は風呂、清佳は自分の部屋に入って行った。


「おお! そうなんだよ! それで観たんだよ! 俺は観たんだよ!」


興奮しきりの司さんが鼻息荒く皿とスポンジを持ったまま俺に向いた。


「ちょっと! だから雫が落ちるって! 何回言ったらわかるんだ、このバカッ!」


つくしに怒鳴られた司さんはガチャン!と食器とスポンジをシンクに置いて(投げて?)手の泡を流してピンクのエプロンで拭き(この時点でものすごいシュールなんだけど)つくしに向いた。
怒鳴り返すのか!?とヒヤリとした次の瞬間、司さんは座っているつくし(の頭)を抱きしめた。


「よしよし、よーしよし、落ち着け。怒鳴ったりしたら腹が張るだろ? そしたら子供が苦しいんだろ? な? 落ち着け。」

「〜〜〜!!」


あたしゃ犬か!? 猫か!? んでもってあんたはムツゴロウか!

というつくしのツッコミが聞こえてきそうな光景だった。


「司さん、そろそろ離さないとつくしが息できてませんよ?」


つくしがグングンとエプロンを引いてるのを見て言った俺の言葉に「おお、悪りぃ」と言って司さんは離れ、そしてまた皿洗いに戻った。
その顔に笑顔を貼り付けて。


「ッハァ、ハァ、もう、つきあってらんない。じゃ、そこよろしく。」

「おう! 任せとけ!」


立ち上がってソファに移動したつくしに、
俺はいつかのように声を潜めて今日の話を聞いた。


「あれ、どうしたの?」

「それがさぁ、」


つくしが道明寺日本支社社屋に出向いた両親学級第2回目は、役員フロアの応接室で行われた。


「最初は順調だったのよ。講師の人が持ってきてくれた妊婦体験キットを身につけてさ、『すげぇ重いな
』とか『こんな大変なのか』とか関心しきりでさ。」


それがどうしてああなった?


「その後、出産のドキュメンタリーDVDを観たの。ま、あれってさ、赤裸々じゃん。包み隠さずっていうか。」

「確かに俺も順も最初に見たときはビビったよな。と言っても大切なことだからな。」

「そりゃあたしもさ、出産の大変さを少しでもわかってもらえたらいいなくらいの軽い気持ちだったんだけどね。」

「少しじゃなかった、と?」

「固まっちゃってさ、終わってもしばらく応答がなかったもん。」

「それであれか?」

「うん。目を覚ましたような表情であたしの肩を掴んでさ、」




『つくし、お前がこんなにしんどい思いしてることに気がつかなくて悪かった。子供を産むのがここまで壮絶なもんだとは知らなかった。俺のためにありがとうな。愛してる。お前のワガママはなんだって聞いてやる。だから今日はもうお前と一緒に帰る。』




「とか言い出して大変だったの。秘書さんとなんとか宥めてオフィスに戻してさ。」


その後、子供の下校に合わせて帰ろうとしたつくしを引き止め、無理やりソファに寝かせ、強硬に帰ると言い張るつくしを抱きかかえて車に乗せ、送り届けさせ、邸から使用人を呼び、家事一切をさせ、自分も早く帰って皿洗いをすると言い張り、つくしの指導を受け、今に至った。らしい。


「ハァァァ…いつもの何倍も疲れた。」

「ククッ、お疲れ様。」

「明日からどうしよう。」

「妻を大切にしたいって思ってくれてんだろ? いいことじゃん。父親への第一歩だよ。」

「そうだけどさ…加減てものを知らない人なんだよ。」

「今はフィーバーなんだよ。そのうち落ち着くよ。」


が、司さんのフィーバーはなかなか落ち着かなかった。
家には使用人さんが通ってくるようになり、つくし専属の運転手と車が用意され、ついには世田谷の道明寺邸に全員で移る話まで出てつくしはとうとうブチ切れた。











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2019.12.02




俺は高山悠介
花沢物産、法務部に勤める34歳だ。
通勤はドアtoドアでおよそ1時間30分。
朝は7時には家を出る。

6時に起きて最初にするのは俺の夫である順にキス。
順はマイカー通勤で、出るのは俺より40分後だ。
ベッドを出れば部屋も出て洗面へ。
顔を洗って歯磨き。
朝食の後にもするけど、起き抜けにもする。
これでこの5年は風邪も引いたことがない。

洗面を出てリビングへ
着替える前に朝食だ。
先に起きてるつくしが毎朝、バランスのいい朝食を出してくれる。

つくしは俺と同い年の34歳。
でもきっと歳より若く見られてんじゃないかな。
だって、家族で出かけた時、必ずと言っていいほどつくしは俺の妹に間違えられる。
他人が俺たち5人を眺めた時に「妹家族とその兄」って図に見える(っていうか、それで無理やり納得してる)らしく、そんな時、兄役はほぼ俺だ。

朝食をとってたら子供達が起きてくる。
清佳は4歳から自分で起きてるしっかり屋さん。
壮介はつくしか俺が起こしてる。
容姿は俺そっくりと言われる壮介だが、甘えん坊なところは順に似てる。
でも最近、つくしに対しては反抗期のようだ。
だから壮介を起こすのは専ら俺の役目。

子供達に朝の挨拶をしたら洗面で身支度を整えて自室で着替える。
ここで順が起きる。
起きた順にちょっかいを出されて着替え直すのもよくあること。

出る時間になってリビングに顔を出すと子供達が朝食をとってる。
その横では起きてきた司さんが、座ってタブレットで世界の市場をチェックしてる。
司さんに挨拶をして子供達の頭を一撫でしてから家を出た。

駅までの道を歩きながら考える。
そう言えばつくしはもうすぐ妊娠5ヶ月だな。
司さんは出産に立ち会うのだろうか。
だとしたら両親学級に参加しないと。
今夜、帰ったら話してみよう。




*********




「つくし、司さんは出産に立ち会うのか?」


9時を過ぎて帰宅した俺に夕食を出してくれているつくしに声をかけた。
スレンダーなつくしの腹がややふっくらとし始めている。


「えー、あたしは嫌。外で待っててもらいたい。」

「でもそうすると、誰に付き添ってもらう? 千恵子さんか?」


千恵子さんはつくしの母親だ。
俺たちのことも可愛がってくれている。
気さくな人で、自分の娘が代理母になると言った時も、「いい経験じゃなぁい。」と軽く言い放った人だ。


「んー、それも面倒だな。あの人は忙しなくて周囲を困惑させる名人だし。出産どころじゃなくなちゃう。」

「今回は俺も順も付き添えないぞ。司さんを差し置いてなんて絶対に無理。」

「そうだよね〜。あ〜どうしようかな。てかさ、付き添いいらないよ。3回目だし。」

「そうか? 司さんとよく話し合えよ。両親学級もそろそろだろ?」

「そうなんだよね。あれにあの人を連れて行くとなるとそれも面倒。」


つくしの悪阻は治ってきたけど、それと同時になんでも面倒くさがるようになってきた。
無理もない。
清佳や壮介のときに勉強したけど、妊娠すると女は人格が変わる。
別の人間になると思った方がいい。
少しのホルモンバランスの変化が大きな影響を及ぼすのだ。

ただ実際、司さんはやや面倒な人ではあるけど。


「よく話し合っとけよ。その時になって急に立ち会うとか言い出したら大変だからな。」

「うん、わかった。」


つくしが通うのは清佳と壮介を産んだ産院だ。
その病院で男が出産に立ち会うためには計3回の両親学級への参加が絶対条件だ。
だから思いついたように立ち会いを希望しても、さあ出産というタイミングでLDR(陣痛分娩室。陣痛から分娩までを一室で行う設備を備えた部屋。)から追い出される。
俺も順もその教室に参加して清佳と壮介の時は立ち会った。


「立ち会わない方向でなんとか説得してみる。」

「でもなんで嫌なんだよ。俺たちの時はしたじゃん。」

「だって、あたしは代理母だったんだよ? むしろあんた達は立ち会うべきだった。見届ける責任があったと思うし、子供を産む痛みを見て理解して自分たちが産んだ気になって欲しかった。清佳や壮介にすぐに愛情を感じて欲しかったのもあるから。」

「司さんは?」

「あの人はほら、ああいう人じゃん。」

「ん、まぁな。わからなくもないけど。」

「医者は女医じゃないとダメだとか、やれ触るなだとか、やれちゃんとやれだとか言いそうじゃん。あんな大変な時にそんなこと言い出したらあたしがあいつをぶっ飛ばしかねない。それに、」

「それに?」

「んー、立ち会ったがゆえに、その後、妻を女として見られなくなったって話を聞いたことがあって…」

「マジ!?」

「ん、なんかトラウマになったとか逆に神秘的過ぎて萎えるとか。」

「プッ、つくし可愛い。つまり司さんに女として見られなくなったらってことを心配してるわけだ。」

「そうじゃないけど…」

「ま、どちらにしてもアドバンテージは女にある。つくしが嫌ならちゃんとわかってもらえよ。俺たちは口出ししないから。」

「いやむしろ、援護よろしく。」

「OK」


「ただいま。なんの話だ?」


順が帰ってきた。
いましがたつくしとした話をして、順もつくしを応援することになった。




*********




日曜日。

いつもより1時間遅く起きてリビングへ。
いつもならつくしが起きてるけど、今日は姿が見えない。
妊婦なんだ。
体の怠さがあるだろうし、気分の浮沈もあるだろう。
今朝は俺が朝食を用意しようとキッチンに入った。
そこに清佳が起きてきた。


「清佳、おはよう。」

「悠パパ、おはよう〜。ねぇ、」

「ん? どうした?」

「ママの部屋から喧嘩してる声がしてるよ。」

「喧嘩!?」


廊下に出ると確かにつくしの部屋から声が漏れてる。
壁を厚くしてるから普通なら聞こえないはずなのに、かなり大声で言い争ってるな。


「だから、ヤダって言ってるでしょ! 産むのはあたしよ!?」

「でも俺の子だ! あいつらは立ち会ったんだろ!? 俺がダメな理由はない!!」

「あたしが嫌ならそれが立派な理由よ!!」

「嫌がる理由がわかんねぇって言ってんだよ!!」


コンコン!


俺は少し強めにノックした。
これ以上ヒートアップしたらつくしの腹が張る。
クールダウンさせて休ませないと。


ガチャ


ドアが開いてつくしが顔を出した。


「つくし、おはよ。声が廊下まで漏れてる。あまり大声出すな。腹が張るぞ。」


つくしは髪をかきあげた。


「ハァァ、ごめん、ありがと。」

「つくし!」


パタン


ドアが閉まる直前に聞こえた司さんの声はまだ尖っていて、話は終わっていない事を物語っていた。

つくしは立ち合いは嫌だって言ったけど、そのこととは別にしても司さんは両親学級に参加したほうがいい。
もう少し、妊婦や妊娠、出産について勉強すべきだ。
妊婦相手に声を荒げるなんて、これから父親になろうって男がみっともないよ。

またキッチンに戻って清佳と朝食を準備してたらつくしが部屋から出てきた。


「ママ、おはよ〜」

「清佳、おはよ〜」

「なんか、喧嘩してた?」


つくしがゲッって顔をした。
そうだよ、清佳にも聞かれてたんだよ。
俺の顔を見て「ごめん」って声を出さずに口だけ動かした。


「ううん、大丈夫。喧嘩じゃないの。あれは議論よ。清佳も学校でするでしょ?」

「するよ。お互いの意見を聞きあって、良いところを見つけて、合わせてもっと良い意見にするの。」


清佳は中学受験をする予定になってる。
年明けから塾に通わせることを順と決めてる。
勉強ができて聡明なだけじゃなく、優しい子だからきっと将来は大物になると俺も順も思ってる。


「そ、そっかぁ。清佳はすごいね〜。ママも見習わなきゃ。」


ダイニングに座りながらつくしは苦笑いをした。


「つまり、司さんの意見との妥協点を探るわけだな。」

「妥協点…なんてあるかな。」

「立ち会いはつくしの希望を通したほうがいいと思うけど、両親学級には参加してもらったら? 司さんはもっと勉強したほうがいいよ。」

「ハァ、そうなるか…」

「あの人だって父親になるのに何も知らないじゃ不安だろ。」

「ん、わかった。」


ひとまずつくしが妥協した。
司さんは計3回の両親学級に参加することになった。








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2019.12.01
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