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はじめまして
当ブログの主、ノナと申します。

「花より男子」原作漫画の二次小説を書いてます。
CPは×つくしです。

基本的にハッピーエンドを目指してますが、キャラのイメージを崩したくない方や、原作以外のストーリーに抵抗がある方は閲覧をお控えください。

また、作中に登場する人物、団体等については、実在の人物・団体等とは一切関係ありません。

原作者さま、および出版社さまとは無関係です。
あくまでも個人的趣味で書いておりますので、登場人物や組織・社会設定などの詳細は適当です。ご容赦ください。
また、内容の無断転載、複製、二次使用等はご遠慮ください。






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2025.01.01




バレンタインデー当日、昼間は散々だった。

会社の社員通用口の前では朝から司にチョコを手渡そうとする女性たちが待ち構えていたが、司はつくしの腕を引きながら完全無視して通り過ぎた。

社内ではつくしが司の恋人だということが公然の秘密だったから、そこまで大きな騒ぎにはならなかったが、なんだかソワソワした他部署の女子社員が入れ替わり立ち替わりやってきては、ちょっとしたスイーツの入った小袋や小箱に自分の連絡先を入れて司のデスクに置いていく。
でも全部、塩田のデスクに投げ入れられていた。


「今年は豊作だわ。ウッシッシ!」

「塩田さん、そんなもの受け取っちゃっていいんですか?」

「なんで? 道明寺さんがくださるバレンタインの贈り物よ? 家族と大事にチビチビ食べることにするわよ。」

「贈り物って・・・」


こういう鷹揚としたところが塩田のいいところだ。
司に対しても構えたところはない。


「私みたいなおばちゃんはね、目の前で咲いてる綺麗な花を鑑賞できればそれでいいの。摘んで自分のものにしようとか、持って帰ろうなんて思わないから。それにしてもほーんと、牧野さんと同じ部署でよかったわぁ。」

「え!? あのっ」

「見てればわかるって。道明寺さんは牧野さんが本当に好きよね。だから道明寺さんはここにいるんでしょ? おかげで毎日眼福の恩恵に浴してるってわけ。牧野さんはあれね。大輪のバラを咲かせ続けるハイポネックスね。今からハイポ牧野って呼ぶわ。」

「やめてくださいよっ!」

「あははは!」


こんな会話が繰り広げられたのは午後のこと。
今日も定時に退社した二人を待ち構えていたのは缶詰卸会社の周辺に勤務するOLたちだった。

社員通用口を出た途端に、異様な空気が渦巻いているのが見えた。
人数にするとざっと見積もっても100人近くはいるか。
手にプレゼントと思しき紙袋や箱を持ち、じっと司とつくしに視線を向けている。
ヒソヒソと話す声が聞こえ、肘で背を押し合っている。

そんな女たちの視線の中をつくしの手を取り、悠々と歩く司。
しかしその目は蔑むように周囲を睥睨している。
司の醸す雰囲気は黒く、女たちは手にしたプレゼントを差し出すこともできずに、その背中を見送っていた。

と、そんな二人の背に勇敢な声がかかった。


「道明寺さん! 待ってください!」


それでも司の足は止まらない。
それを止めさせたのはつくしだ。


「呼ばれてるよ! ちょっと待って。」


司の腕を引いて振り向いた。


「聞く必要ねぇよ。」


それでもつくしは立ち止まって女性に振り向き司の背を押し出した。
女性は司の正面に進み出た。
照れたように視線を泳がせている。
司に恋する様子が表れていた。


「あの、そちらの方は、彼女…さんですか?」


女性はチラとつくしを見遣った。


「・・・・」


司は答えない。
つくしもなんと言っていいのかわからないし、口出しする場面でもない。


「私、春からずっと道明寺さんのこと見てて……それで…これ、よかったら受け取っていただけませんか?」


その女性は20代前半、つくしと同じくらいの若い女性で、品良く染められた長い髪は巻かれて、前髪はアイドルのように揃えられ、滑らかな頬はうっすらと染まり、アイラインの引かれたクリクリとした瞳は長い睫毛に囲まれ、それがフワフワと揺れて上目遣いに司を見ていた。
男性なら誰しもがお近づきになりたい、そんな女性だった。

司はなんと答えるのか。
つくしと結婚までしている現状で、よもや彼女になびいたりはしないだろうが、それでもプレゼントを受け取ってなんと声をかけるのか。
つくしだけでなく、いま、二人を取り囲む女性たちも固唾を飲んで司のアクションを待った。

すると司は自分の背に隠れていたつくしに振り向き、その腰に腕を回して前に引き寄せた。
腰を抱き、先ほどとは打って変わった艶っぽいニヤけた表情でつくしの顎に指をかけて上向かせた。


「な、今日の晩飯は軽くでいいよな。だって、その後はお前を食わなきゃいけねぇからな。」


そう言って司はつくしの耳にキスをした。
一斉に悲鳴が響く。
その中を司はつくしの手を引いてまた歩き出した。
女性はプレゼントを握りしめたまま、呆然と二人を見送った。


「ちょっと! つか…道明寺さん! 止まりなさいって!」


ぞろぞろと女たちを引き連れて、駐車場に停めた車につくしを押し込んだ。


「司!」


ファーー!! パッパーー!!!


クラクションを派手に鳴り響かせ、女たちを散らせると司は車を発進させた。




***




「もう! なんでちゃんと断らないのよ!」

「断ったろ。」

「あれじゃ無視したみたいじゃない。」

「俺の細胞はお前以外の女には1ミリも動かさねぇ。資源の無駄使いだからな。お前、『もったいない』こと嫌いだろ?」

「そんな…極端な。」

「それにな、どんな言葉でもどんなアクションでも、それが例え罵って蹴倒す行為だとしても、された女は図に乗るんだ。俺に関わってもらったってな。挙句に俺と痴話喧嘩したとかデマを流すようになる。そんなのNYで経験済みだ。だからあの場合、あれが最善なんだよ。」

「・・・・」


助手席のつくしはそれ以上反論できずに顔を車窓に向けた。

自分は結局、安堵したんだ。
司があの可愛い女性に優しい態度を見せなかったことに優越感さえ抱いたんだ。
なんて醜い…

2月中旬の午後6時過ぎはもう夜で、23区にある会社周辺は東京特有の華やかさがあった。
その景色が徐々に都市から住宅地に変化していき、見慣れない店の前で停車した。
ずっと黙っているつくしに司が話しかけた。


「怒ってんのか?」

「怒ってなんか…で、ここ何?」


司のエスコートで降り立ったそこは、製菓材料の専門店だった。


「えっと…こんなとこに何の用なの? まさか、あたしにチョコ作れってこと?」

「行こうぜ。」


店に入ると司はカゴを持ち、店内を進んでいった。
つくしは珍しい品揃えにキョロキョロと興味を示しつつ、司の後をついて歩いた。

その間、司は立ち止まり、考え、商品を手に取り、カゴに入れていく。
材料の陳列棚を過ぎ、次に道具類の棚まで来た。
ここでも同じような道具が並ぶ中を物色していく。
製菓用の深いボウルを手に取り、泡立て器をカゴに入れようとして堪らずつくしが声を発した。


「ホイッパーならうちにもあるよ?」

「あんなんじゃ時間かかって仕方ねぇ。」

「…何するつもりなのよ……」





製菓材料店での買い物を終えて、次にはいつも寄っている近所のスーパーにやってきた。
ここではつくしがカゴを持った。


「お前、フルーツは何が好きだ?」

「フルーツ?…なんでも好きだよ。夏ならスイカ、桃、秋は栗、って栗は果物じゃないか。冬のみかんもリンゴも。今ならイチゴだよね。」

「じゃ、イチゴ。」


司がイチゴのパックをカゴに入れた。


「・・・・」


何かをしようとしてることは間違いない。
というか、きっと料理をしようとしてるんだろう。
もしかして、ケーキ作ろうとしてるとか?
うち、オーブンないけど。

しかしそこはいくら鈍感なつくしでも、言葉にしないほうがいいことくらいわかる。
サプライズ……ではないのかな?
どんな顔してればいいんだろう。


「晩御飯は軽く、でいいんだよね?」

「ワイン飲むから摘まめるもんでいい。」

「ワイン飲むんだ。ふーん。」


いつの間に用意したの? と考えながらも、逆らわずに食材をカゴに入れていった。










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2019.08.20




2月上旬、もうすぐバレンタインデーだ。
つくしは悩んでいた。
24時間行動を共にしていると、内緒で行動できない。
プレゼントを買いに行くにしても、チョコを手作りするとしても、司にバレずには不可能だった。


「はぁ…どうするかなぁ…」


つくしは今、デスクに置かれたPCに向けてため息をついた。
いつも隣にいる司は、今日は珍しく社外に出ている。
総務なのになんで会社の外に出る必要があるのかと思うが、なんでも社長にどうしてもと請われてある取引先に向かったらしい。
実は今週の外出はこれで2度目だった。


「牧野さん、さっきからため息ばかりでどうしたの?」


椅子のキャスターを回転させて肩を寄せてきたのは同じ総務の先輩、40代の世話好き女性、塩田だ。


「今日は道明寺さんがいないから、寂しいんでしょ?」

「ちっ違いますよ! なんであんなのが、」

「でも、付き合ってるのよね?」


塩田の視線がつくしの左手に注がれた。
二人は堂々と結婚指輪をしていたが、周囲はまさか結婚したとは思わず、ペアリングをしていると思っていた。
見た目からは違いなどわからない。


「あの、あー…まぁ、そうですかねぇ…はは」

「今日は珍しく居ないんだから、今のうちに私でよかったら相談に乗るわよ。なに? 夜が激しくて控えて欲しいとか?」

「塩田さん!」

「あら、よくある悩みよ? カップルでそういうタイミングが合わないと本気でしんどいからね。」

「違います! ただバレンタインデーが近いなぁって。」


肩を寄せていただけだった塩田が体ごとつくしに向いた。


「そっか、24時間いっしょだもんね。だって同棲してるんでしょ?」

「うっ」


そりゃバレてるか……


「手作りは無理ってこと? うちのキッチンでよかったら貸すけど。」

「ひとりで外出する口実が浮かびません…」

「じゃ、プレゼント。ネクタイとか? 今の子は下着とか?」

「…ひとりで外出する口実が浮かびません…」

「……あ、えーと、そんなに束縛ひどいの?」


最後は声を潜めて耳打ちするように囁かれた。
束縛がひどいわけじゃない。
でも少しでも離れたくないから別行動ってのをなるべくしたくない。
それは司も同じ気持ちだと思う。
わざわざ言葉にはしないけど。
だからひとりで出かけたいとか言われたら目的を問いただしたくなる。


「だったら、手紙を出すのね。」

「手紙?」

「メッセージカードよ。いつもは口から出してる言葉を文字にするの。ずっと残って何度でも読み返せるでしょ? 案外、話すよりも心に響くわよ。」

「カード…そっか、いいですね。」


つくしが塩田にニッコリと微笑んだその時だった。


「課長、牧野さん2〜3時間、外出します。給湯室の買い物頼んだので。いいですよね?」


塩田がいきなり柴山課長に申し出た。
さっきまでつくしの横にいた塩田はもう課長の前に進み出ていた。


「いいけど、給湯室の買い物っていつも発注してなかったっけ?」

「課長…ボソボソボソ」


塩田はなにやら課長に耳打ちしている。


「えっ!? わかった。牧野さん、よろしく頼むよ!」

「あ、はい…?」


塩田さん、何言ったの??

振り向いた塩田はつくしにウインクし、出ていくように合図をくれた。


「じゃ、ちょっと行ってきます。」


つくしは立ち上がって荷物のある更衣室に駆け出した。




***




「おかえりなさい。」


つくしはどうにか司の外出中に戻ることができた。


「ああ、ただいま。」


最近、司はフワリとした微笑みをよく見せるようになった。
その瞬間、甘い香りが漂った。
またあの香り。
この前も同じ香りがしてた。
…なんか、バニラの香り?……香水?


「商談はどうでした?」

「ああ、上手くいった。」

「へぇ…」


商談相手は女性だったのかな?
でも香水が移る距離感ってどんなの?
抱き合わなきゃ移らないんじゃない?
あたしには他の男の匂いをつけるなって言ったくせに、自分は何なのよ!?


「取引先の人って、女性?」

「いや…」


つくしの言葉の真意を推し量って、司はニヤリと口角を上げた。


「女だったらどうなんだ? 気になるのか?」

「えっ…別にそういうんじゃないわよ! さ、道明寺さん、仕事してください?」


ニヤニヤの司とモヤモヤのつくし。
つくしのモヤモヤは晴れないまま、バレンタインデーを迎えた。









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2019.08.19
話数のナンバリングが飛んでおりました。
昨日のが68話で、本日のが69話です。
教えてくださったLUCA様、ありがとうございました!!








結婚したことは職場にはギリギリまで伝えないことにした。
それはやはり二人の関係がまだ不安定だからだ。
つくしからの提案に、心の負担が一つでも減るなら、と司も同意した。

そして念のためと椿に紹介してもらった産科を訪ね、詳しい事情は伝えずに結婚したから、と検査を受けた。
その結果、二人ともに問題なしと診断された。


「でもね、正常な男女でも一度の排卵で妊娠する確率は30%なのよ。ね、命って奇跡でしょ? だから焦ることないわ。結婚したばかりなんだし、お二人ともまだお若いんだから、新婚生活を楽しむ気持ちが大切よ。」


司もつくしも、もうそのことについて口にしないことに決めた。
春から二人がどうなろうと、例え離れてしまうことになろうと、生涯の伴侶は互いと心を定めたからだ。
いま、共に居られるこの時をつまらない屈託に費やしたくなかった。




***




つくしには今月も月のものがきて、ベッドに入った今夜は背中から司に抱きしめられている。
生理が来てしまった落胆はつくしの心に仕舞われている。
ただ司から伝わる温かさが心を慰めてくれた。


「ねぇ、もうすぐあんたの誕生日だね。」

「ああ、そういえばそうだな。」

「24歳になるんだよね。平日だけど、どこか行きたい? 何かしたい?」

「フッ、お前も俺に聞くんだな。俺たち似た者夫婦だな。」

「あはは、そうだね。お姉さんに「本人に聞くもんじゃない!」って怒られそうだね。あんたがしてくれたみたいに、あたしも何かお祝いしたいな。」

「俺は自分の誕生日がめでたいなんて思ったことねぇよ。毎年、一番嫌な日だった。」

「え…なんで?」

「俺の誕生を祝福してくれる奴なんていないからだ。俺の誕生日は道明寺に媚びたい奴の記念日だった。毎年、屋敷でパーティーを催して、この日だけは両親が帰国して、それを待ち構えるハイエナたちの祭りの日。姉ちゃんとあいつらくらいだな、俺に向けて純粋に祝ってくれたのは。」

「今年からあたしもそこに加わるよ。なんせ妻だし……って、なんか照れる。」

「それだけで十分だ。23歳の滑り出しは4度目の縁談で最悪だったけど、お前ンとこ戻れて、最高の23歳だった。そして極め付けはお前のお初がもらえて結婚できて。これ以上ないだろ。」

「ちょっと! 露骨に言わないで! でも24歳はきっともっと幸せになれるよ。あたしがついてるんだから。」

「ああ、そうだな。」


寄り添って相手の匂いを吸い込む。
全身に安心が広がる。
そうして瞼が重くなり、眠りに誘われる。
この日常がずっとずっと続く夢を見るために。




***




司の誕生日がきた。
花の金曜日、定時に退社した二人は車に乗り込んだ。


「で、どこに行くって?」

「あそこに行きたいな。司が告白してくれた海。」

「またなんで? 寒いじゃん。」

「冬の海が見たいの。」

「夜だぞ。」

「もう! いいから。」


高速に乗り、西へ向かう。
高速を降りて南へ。
2時間近く走って、到着したのはあの海岸だ。


「ほら、やっぱり真っ暗じゃねぇか。」

「その方がいいの。ね、歩こ?」


つくしから司の手を取り、繋いだ。
遠くに並ぶ街灯が浜辺を照らしている。


「足元、気をつけろよ。」

「ん、この辺りかな。」


それは夏に司と並んで海を眺めた場所だ。


「座ろうよ。」


着ているコートの裾を押さえ、肩を寄せ合って砂の上に座った。
聴こえるのは潮騒の音。
見えるのは海に浮かぶ月。
それはもう少しで半月になりそうな三日月だ。
その月の頼りなげな光に波の輪郭がチラチラとかたどられていた。


「ねぇ、あの時さ、なんで海を目指したの?」

「……なんでだろうな。ただ運命から逃げ出したくて、闇雲に走らせてたら海岸を指す標識が目に入って、なんか、デカイ海を見て頭空っぽにしたかったのかもな。」

「海に向かって歩いたのはなんで? あたしが止めなきゃ入ってた?」

「入ってたな。別に死のうとか思ったわけじゃねぇよ。ただ、冷たくて気持ち良さそうだと思っただけ。」

「マジ!? あたしはびっくりしたんだからね!」

「悪かったって。気づいたらお前が抱きしめてくれててなんか得したなって思った。」

「信じらんないっ!」

「お前はあの時なんでキスしてくれたんだ?」


時折、大きな波音が聴こえて、思わず海の奏でる調べに耳を傾けてしまう。
今は満潮に向かう時刻で、生まれては消え、消えては生まれる波が二人に迫っていた。


「なんでかな…司がなんだか追い詰められてるような気がして、拒んだらあんたをもっと追い詰めるような気がして、キスくらいいいかって思ったから…かな。」

「じゃ、今またしてくれよ。」


暗がりの中で司はつくしに向いた。


「夜の浜辺でキスするとロクなことがないからしない。」

「お前…! あの時の上書きだと思ってしろ。今思い出してもムカつく。類にしたんだから俺にするのは当然だろ。」

「やだ。」

「テメェ…」


つくしはフイッと顔を背けた。


「あんたにしたらキスの先がしたくなるじゃん。だからやだ。」

「なっ、なんだと…」


数秒後、つくしの言葉の意味がわかって司はカッと身体に熱が走った。
この女は時々、とんでもない爆弾を放るのだ。
体は小さく非力なのに、司はこいつには敵わないといつも思っていた。


「今夜はそんなことをしに来たんじゃないの。司の誕生日を祝いに来たんだから。」

「だからそんなのいいって。」

「ね、見て。」


つくしは南の空を指差した。


「あの辺りに司の星があるよ。」

「は?」

「『 道明寺司 』って名前の星がシリウスの光るおおいぬ座の中にあるの。あんたはまさに綺羅星のごとく光り輝く人だから。」

「ちょっと待て。お前、何言ってんだ?」

「はい。お誕生日おめでとう、司。」


つくしが差し出したのは一通の封書だ。
司が受け取ると、つくしはスマホを出してライトをつけた。
封筒から出てきたのは『星命名証明書』
そこには『TSUKASA.DOMYOJI』という星名と位置、地球からの距離、そしてその星が所属する星座が記されていた。


「星に司の名前をつけたの。これであんたの名前は宇宙にまで轟いたってわけ。さすが世界の道明寺司だね。」


思いもよらないプレゼントに司は笑い出した。


「何がおかしいのよ?」

「いや、悪りぃ。ありがとう! すげぇ嬉しい。さすが俺の嫁は最高だな。やっぱキスさせろ。」


星に司の名前をつけたのは、離れてしまっても夜空を見上げれば愛しい人に会えるから。
夜になれば見つけられるそれは生涯消えぬ星。
つくしの愛も生涯消えぬことを表していた。

そしてそれが嬉しかったのは愛する人がいつまでも自分を想ってくれるとわかったから。
夜になれば彼女を見下ろすことができる。
例え自分の目では見えなくとも、星となって彼女のそばに居られることを表していた。


司は隣のつくしを抱き寄せてキスをすると、しばし二人で星空に見入った。










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2019.08.18
ご心配をおかけしました。
今日からまたよろしくお願いします。









真実を共有し、互いを諦めないと決めた二人は婚姻届を出すことにした。
例え春には無効にされて離れることがあっても、心は添い遂げようと決めたからだ。
土曜日だったその日に婚姻届をもらいに行き、つくしは千恵子に連絡を取って午後には挨拶に行くことにした。




「まぁまぁまぁ! 道明寺様、ようこそいらっしゃいました! 遠いところをありがとうございます〜」


急な申し入れにもかかわらず案の定、千恵子は司の来訪を諸手を挙げて喜んだ。
リビングに通され、ダイニングテーブルに4人で座ると、司はやや椅子を引いた。


「お義父さん、お義母さん、この度はご挨拶が遅くなってしまい、申し訳ありません。」

「いえいえ、いいんですのよ。ホホホホ。またつくしとお付き合いしてくださって、こちらこそ有難いことですわ。」

「ママッ!」

「それで、つくしと結婚を考えていらっしゃるとか?」


司は顔を引き締め、千恵子と晴男を交互に見た。
そのあまりの男っぷりに千恵子が思わず赤面する。


「ええ、本日お伺いしたのもその件です。是非、結婚のお許しを頂きたく存じます。つくしさんを私にください。」


司は頭を下げた。


「パパ、ママ、あたしからもお願いします。」


つくしも頭を下げた。
その様子に夫婦で顔を見合わせ、答えたのは晴男だ。


「道明寺さん、どうぞ頭を上げてください。」


司が顔を上げると元々柔和な顔をさらに綻ばせた晴男の表情があった。


「つくしは頑固で鈍感な子ですが、そんな子が生涯の伴侶に選んだ人だ。きっとつくしはあなたとならどんな困難も乗り越えていけるでしょう。お家のご事情もあるでしょうが、どうぞ、つくしをよろしくお願いします。」


そう言って最後は晴男とそれに倣って千恵子が頭を下げた。


「ありがとうございます。必ず二人で生きていきます。」


晴男から婚姻届の証人欄にサインをもらった二人は、翌日の日曜日には道明寺邸の椿を訪ねた。




***




司が道明寺邸を目の当たりにする心境はこれまでとは違っていた。
これまではただの自宅だったものが、今では魔物の住まうラビリンスだ。
長い歴史と家柄と財力。
そういうものが愛や尊厳を犠牲にする価値のあるものとは到底思えない。
そう思えるようになったのは自分の隣に愛する人がいてくれるからだと司は思った。
この人がいなければ、自分は一生、つまらないものをあたかも極上と思い込んで生きていた裸の王様だったろう。


「いらっしゃい。訪ねてくれて嬉しいわ。」


司から連絡を受けた椿は穏やかな微笑みを浮かべて出迎えてくれた。
つくしにすべてを打ち明け、その上でつくしが共に困難に立ち向かう決心をしてくれたと聞かされ、椿は一人涙を流して弟がつくしに出会えた幸運を神に感謝した。


「さ、早速、サインをさせてちょうだい。」


応接室に通され3人でソファに座ると、司は椿の前に婚姻届を広げた。
そこには司とつくし、そして一人目の証人である牧野晴男のサインがあった。
椿は自分の万年筆を取り出すと、慎重に名前を書き込んでパッと明るい顔を上げた。


「これで完璧!」

「姉ちゃん、サンキュ。」

「いいの。あなたたちの幸福が続くことを心から祈ってる。つくしちゃん、ありがとう。」

「いえ、お姉さんこそお辛い立場でしたよね。私に内緒にしなきゃいけなくて。」


つくしの言葉にまた涙腺が崩壊してきた。


「ズッ、グスッ、やめてよ、私のことなんていいのよ。本当につくしちゃんには感謝してるんだから。こんなどーしようもない男を引き取ってくれて、どんなに私の心の重荷が軽くなったことか。」

「お姉さんの作戦にまんまと乗っかっちゃったのが運の尽きです。」

「おいっ」

「あの時、冷たい姉を演じるのが辛かったわ。つくしちゃんが「優しいところもある」って司を庇ってくれたのが嬉しくてね。ああ、やっぱりつくしちゃんしかいないって。最後につくしちゃん言ったでしょ?「立ち直った司がどう生きるかは司が決めることだ」って。本当にそう思うわ。だから何があっても負けないで。私はいつでもつくしちゃんの味方だから。」

「ありがとうございます。」

「ところであなたたち、結婚式はどうするの?」

「それは、」


司が言いかけて、それをつくしが継いだ。


「それはまだ考えてません。あたし達の関係が盤石になったら、そのときはって思ってます。」


つくしの言葉を受けて、椿は考え事をするようにソファの肘掛けで頬杖をついた。


「このあと、まだ時間あるでしょ? 今日の記念に写真だけでも残しましょうよ。」


そう言うと二人の返事を待たずに立ち上がり、内線を手に取った。


「キヨさん、つくしちゃんにフィッティングルームを用意して。ええ。司は自分の部屋で着替えるわ。」

「姉ちゃん、着替えるってなんだよ。」


内線を置いた椿はつくしの腕を取って立たせ、歩き出した。


「えっ、えっ!?」

「姉ちゃん!」

「いいから、あんたも自分の部屋に行きなさい。行けばわかるわ。じゃ、つくしちゃんを借りるわよ。」


つくしは司に目で困惑を訴えながら、椿と共に部屋を出て行った。






1時間後、道明寺邸の一室でカメラマンが二人を待ち構えていた。
最初に入ってきたのは光沢ある黒のフロックコートを着た司だ。
そしてそこに、椿とキヨに付き添われたつくしが入ってきて司は目を見張った。


「つくし……」


つくしは椿がデザインしたウエディングドレスを纏っていた。
それは司がリクエストした通り、肌を一切出さないデザインだった。
身頃と袖はシルクとレースの2重仕立てで、細い首はレースだけで覆われている。
シルク地はオフホワイト、レースはアイボリーになっており、レースの繊細さが浮き上がっていた。
細いウエストで切り替えられたスカート部分はふんわりとしたプリンセスラインで、重ねられたシフォンを身頃と同じレースの生地が覆っていた。

黒髪は結われ、ベールではなく白い生花とパールで飾られている。
つくしの清純さを表すように化粧は白い肌を生かし、頬にはパウダーピンクのチークを淡く乗せ、唇にはパリスピンクのリップを引いた。


「さ、つくしちゃん。」


椿に促され、つくしはドレスをさばきながらおずおずと司に歩み寄った。


「あの、こんなにしてもらっちゃったんだけど、どうかな?」


照れた瞳が上目遣いに司を伺った。


「…すげぇいい。綺麗だ…俺の理想そのものだ。」


その言葉につくしの顔が赤く染まった。
そしてさらに司に近づき、その顔を軽く睨んだかと思ったらつくしの思い切ったような言葉が届いた。


「あんたも…か、カッコイイよっ」


大晦日に「愛してる女から言われたい」と乞うた言葉が不意に発せられて、司もまたカッと上気した。
嬉しいと照れくさいが交差する。


「お前…褒める時に睨むなよ。」

「睨んでないっ」

「まぁいい。どんなお前も愛してるから。」

「ちょっと! そういうことをサラッと言わないで!」

「ははははっ」


そして若い二人は並んで立ち、今日という門出の佳き日を永遠にフレームに収めた。




***




その後、ランチをご馳走になり道明寺邸を後にした二人はそのまま区役所に婚姻届を提出し、再会からおよそ9ヶ月、晴れて夫婦となった。


「つくし、これからもよろしく。」

「もう道明寺って呼べないね。だってあたしも道明寺になっちゃったもん。よろしくお願いします。旦那さん。」

「おう、そうか! お前も今日から道明寺か! 奥さん。」


結婚式もパーティーもない、二人だけの厳かな結婚。
それは砂上の楼閣だったかもしれない。
でも例え楼閣が幻だったとしても、砂に巣を作って生涯を過ごす生き方だってある。
どこだろうが司とつくしは互いが一緒ならそれでよかった。

プラチナに金のラインを入れたデザインでオーダーした結婚指輪にはそれぞれが想いを込めた言葉が刻み込まれた。


“ You are my love and life. Tsukasa ”
(あなたは私の愛であり命です。司)


“ You are my lifetime treasure. Tsukushi ”
(あなたは私の生涯の宝です。つくし)


その夜、二人は抱き合った。
司は初めて、愛する人を心を込めて抱いた。
生殖を目的とした、結果を求める抱き方ではなく、ただ純粋につくしを愛する行為だ。
肌の隅々にまで触れ、口づけし、濡らし、それはつくしでさえも焦れるような長い愛撫だった。


「つくし、愛してる。生涯、お前を愛し、守ると誓う。」

「司、ありがとう。あたしも……同じだから…」

「クッ だからそこはお前も「愛してる」だろ?」


繋がって溶け合い、互いを与えて分け合う。
押し上げ、引き上げ、同時に昇り詰める。

人だけが享受する生殖を超えた営みは愛の力で究極の快感をもたらし、司もつくしもこの夜、生涯忘れない幸福を心にも記憶にも刻み付けた。










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2019.08.17
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