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はじめまして
当ブログの主、nona(ノナ)と申します。


「花より男子」原作漫画の二次物語を書いています。
カップリングは×つくしです。

漫画「花より男子」が大好きで、この物語を生み出してくださった原作者さまに敬意を表しつつ、原作の設定、登場人物を拝借し、私独自の世界観で物語をお届けします。
ですので司が酷い男になったり、つくしを裏切ったり、つくしが男好きになったりするかもしれません。
結末に関しても基本的にはハッピーエンドですが、そこに向かう経過では悲劇が待っているかもしれません。

このように、登場人物のイメージを崩したくない方、原作者さまが描く司やつくしやその他の登場人物のキャラクター以外は受け入れられない方、また、原作の流れから逸脱したストーリーに抵抗がある方は自己責任で閲覧をお願いします。
読んでから「イメージと違う!」とのご批判は受け付けません。

当ブログ、およびブログ主は原作者さま、および出版社さまとは無関係です。
また、作中に登場する人物、団体等については、実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
あくまでも個人的趣味で書いておりますので、登場人物や組織・社会設定などの詳細は想像の範囲です。ご容赦ください。

また、内容の無断転載・複製・悪意ある二次使用、あるいは引用要件を満たさない引用等はお断り致します。



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よろしくお願い致します。

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2030.12.31




つくしのリクエストで一行がやってきたのはチェルシーだった。
この界隈は多くのギャラリーがあり、最先端のアートを世界に向けて発信している反面、ニューヨーカーの生活を彩るマーケットや庶民的なレストランが軒を連ねている。
つくしの表情は5番街を回っていた時よりも明るく、窓に張り付いて食い入るように景色を眺めていた。


「そうそう、私、ニューヨーク初めてなのでこういう所に来たかったんですよね! あっ! あれ可愛い!」


司への報告はすでに諦めた森川は、自分たち側に近い感覚を持つつくしを苦笑をもって眺めていた。


「ご興味を引くものがあれば仰ってください。車を止めて見学いたしましょう。」


岡村に言われつくしが車を止めさせたのはチェルシー・マーケットだった。
つくし、森川、岡村に後続車から降りてきたSPが加わり5人となった一行は、大物にも慣れているニューヨーカーの目を引きながらマーケットの中に足を踏み入れた。 


「うっわっ!」


そこは大きな工場跡の建物の中に様々な専門店が軒を連ねている屋内型の市場のようだった。
特に目を引くのは飲食店だ。
サンドイッチ、チーズ、チョコレート、中には寿司バーもある。
そのどれもがいかにもアメリカ的なイメージにピッタリの店構えで、商品が大胆かつ華やかに陳列されていた。


「すごいっ! 楽しい!! あ、あれ美味しそう! あれも!」

「奥様、お声が大きいようです。少しお控えください。」

「森川さんは何がお好きですか?あっ! ロブスターですって!! 食べていいですか?」


急に走り出したつくしを残された4人が追いかける。
森川は、こんな時こそ島田にいてもらいたいと思った。
つくしのパワーは岡村では到底、抑えることができないのだ。
英語だけは流暢に操れるつくしは、早速、店員とコミュニケーションを楽しみ始めた。





食べ物の専門店にひとしきり興奮した後は、女子の大好きな雑貨屋巡りだ。


「あれもこれも可愛いものがいっぱい!この『チェルシーマーケット』のロゴのトートバッグはお土産にしようかな。」

「お、奥様、それは道明寺夫人が持つのに相応しいとは…」

「どうして? 可愛いですよ? 安いし。」

「安さを判断基準になさるのはいかがなものかと…」

「なんだか森川さんて島田さんに似てきましたよね。」

「え!?」


つくしは唐突な指摘に愕然としている森川の横をすり抜け、もうさっさと次のターゲットに向かっていた。


「これ、『Bento』?…あ!お弁当のこと?」


つくしが手にとったのは縦20センチ、横30センチ、深さは6センチほどのステンレス製の容器だった。
陳列の表示からはどうやら弁当箱のようだったが、日本のものと違うそれは、蓋と本体が蝶番で一体となっており、本体の料理を入れる部分が窪んでいる。
その窪みは様々なサイズで分かれていた。


「へー、こんなお弁当箱初めて見た。おかずを入れるところがそれぞれ独立してるんだ。味が混ざらなくて、これいいかも。」

「気に入ったのでしたら購入されますか?」


遠くから見守る森川に対して、つくしのそばにピタリと付き従う岡村が柔和な笑顔を向けた。


「はい! 自分用と、実家の母にもお土産にしようと思います。サイズもいろいろあるので何種類か。」

「それでしたら今度、このお弁当で旦那様とお庭でピクニックもよろしいかもしれませんね。」

「え…、旦那様とですか?」

「? ええ。」


つくしはお弁当を持ってピクニックが好きだ。
それは、実家では常に経済的逼迫に直面していて、他にレジャーと呼べることがなかったからだ、というだけではない。
青空の下で家族や友人と食べる弁当は格別だと感じるからだ。


「でも、旦那様が冷えたお弁当を食べるところなんて想像つきませんけどね。」


つくしはそう言って少し切なげに笑った。


「奥様はお料理はなさいますか?」

「あ、はい。します。ずっと自炊してましたし、実家にいる頃も夕食は母と当番制にしてたので。」

「それならかなりの腕前なんですね! 旦那様は奥様のお手料理ならお弁当でも召し上がると思いますよ?」

「私の手料理…ですか…?」


まさかそんなことは半信半疑だった。
しかしこの時ふと、司の食事のことが気になった。
今朝はコーヒーだけだった。
そして今夜はさらに遅くなると言っていた。
かなりの忙しさだが、しっかりと食事をとっているだろうか。


「司…ちゃんと食べてるかな…」


ポソリとこぼれた呟きを聞き逃さなかった岡村は、なにかを閃いた顔をして、つくしの手を取った。


「奥様、それでしたら今からでも旦那様にお弁当をお届けしましょう!」

「へ!? 今から? お弁当を?」

「そうです! きっとお喜びになられます!」

「え!? ええ??」


岡村に手を引かれ、その特徴的な弁当箱とそれを入れるランチバッグを何種類か購入してから、今、企てた計画に驚愕する森川を伴って一行は帰路についた。




***




リムジンの中で森川から菱沼に連絡をとってもらい、司のスケジュールを確認した。
今夜は社外に出る予定はないという返事で、つくしが食事を差し入れることが決まった。


『奥様が食事を?』

「ええ。岡村の提案なのですが、奥様は旦那様のお食事のことを気にされておられまして。いつもどうなさっていらっしゃいますか?」

『NYでは会食ってものがないですからね。それにお忙しいので専ら社内で済ませています。メープルの厨房から軽食をデリバリーしてもらってますね。』

「それは温かいものを?」

『ええ、そうです。まぁそれも食べたり食べなかったりですけどね。いらっしゃるなら今夜はメープルをキャンセルしますよ。20時ごろに少し休憩を入れておりますがその時間でよろしいですか?』

「わかりました。旦那様には秘密にしてください。まだどうなるかわかりませんので。」

『えー、そうですかぁ? 聞けば仕事が捗りそうなのになぁ。』

「むしろ手につかなくなるんじゃ?」

『ハハハッ、それもあるかもしれません。ではまた。』


通話を終え、森川は今日何度目かの深いため息をついた。
司はきっと喜ぶだろう。
そして明日以降も期待するに違いない。
つまり一度、食事を届け始めたら、そのたびにつくしに会えることに味をしめて事あるごとに要求してくるのが目に見えている。
もしかして帰国してからも!?

森川は、いずれかのシキタリに抵触しやしないかと思いを巡らせた。








途中で日系のスーパーに立ち寄って買い物をし、ペントハウスに戻るなりつくしと岡村は道明寺邸から呼び出したシェフと共にキッチンに立った。


「では、奥様を中心にしてに作っていきましょう。もちろん私もシェフも手伝いますので。」


メイド服に着替えた岡村がメニューを前にしてつくしに告げた。


「あの、やっぱりこれって無謀じゃないですか?」


あのブランドはエプロンまで作っていたのか!とつくしが驚きを通り越して感心した有名メゾンのシンプルなエプロンを身につけたつくしは、困惑顔で岡村に向いていた。


「どうしてですか?」


岡村は柔和な表情を崩さない。
島田の正直な厳しい表情に慣れたつくしには、むしろこちらの優しい顔の方が落ち着かなかった。


「だって、そもそもお仕事中に押しかけたら迷惑かもしれませんし、それに私を中心にって、旦那様の味の好みも知りませんし、よしんば味はシェフに決めていただいたとしても、私が作れるものなんて庶民のそれですし、見栄えだって旦那様が普段、召し上がっているものに比べれば、」

「奥様!」

「はい?」

「そんなことはどれも旦那様にはどうでもいいことです。奥様が会いに来てくれたとなればお仕事中でもお喜びになられますし、それに自分のために料理をしてくれたという事実だけでも旦那様はきっと嬉しいはずです。それに、旦那様を幼少から存じ上げておりますこの岡村はわかります。奥様なら大丈夫です。きっと美味しいと仰ってくださいますわ。」


なにを根拠にそんなことを言うのかつくしには全く理解不能だったが、司を子供の頃から見てきたという言葉には説得力があった。


「わ、わかりました。じゃ、頑張ってみます。でもやっぱり冷えたものじゃなく、出来る限り温かいものをお届けしたいと思います。」

「わかりました。その点は配慮いたします。」


そこから料理が始まった。
NYの邸のシェフからアドバイスや手助けをしてもらった料理とつくしだけのオリジナルを一つということで玉子焼きを添え、温かいものと冷たいものを分けた豪華なランチボックスたちが出来上がった。


「できました!」

「素晴らしいです! 早速、お届けしましょう。」


時刻はすでに19時を回っていた。
シェフに別れを告げ、森川にSPも伴い、昼間と同じメンバーは再びペントハウスを後にした。








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2020.07.03




道明寺NY本社ビルの司は偀のオフィスにいた。


「報告は以上です。」

「いいだろう。順調なようだな。帰国は月曜日だったか?」

「はい。」

「つくしさんは元気か?」

「元気です。今回はNYに同行しています。」


執務机で複数のPC画面に向かって司の話を聞いていた偀は、今日、初めて司に顔を向けてクッと皮肉な笑みを見せた。


「10日間も離れているのが寂しかったか?」

「そういうわけではありませんが、成り行きです。」

「成り行きねぇ。後が辛くなるのに…」

「え?」

「いや。で、楓に聞いたが、バカンスは取れそうなのか?」


ソファに腰掛ける司は、テーブルの書類にポンとペンを投げた。


「取れませんよ。社長にもっと頻繁に帰国していただかないと。」

「そのことだけどな、お前に日本を全面的に任せる計画がある。」

「全面的!?」


疲労を感じ、眉間を押さえていた顔を偀に向けた司の表情は驚きを表していた。


「そう、将来、お前が総帥になれば全グループを掌握する。その前の力試しだな。好きなようにやってみればいい。俺も楓も一切、干渉はしないし、もちろん、手助けもね。」


自分の父親と言えども食えない男だと感じさせる偀はデスクに肘をついて手を組み、決して瞳の奥が笑うことはない目を細めた。
ゴクリ…と司の喉が鳴った。
最近では偀と楓の影響下で過保護な仕事をすることにかなりのジレンマを抱えるようになっていた。
特につくしと結婚し、世田谷の主人となってからはその違和感は大きくなるばかりで、仕事においても早く一国を掌握したかった。


「望むところだ。助けなんていらねぇよ。」

「ハハッ、楽しみだ、と言いたいが、任せる時期については未定だ。」

「は!?」


司は立ち上がり、偀のデスクに詰め寄った。


「未定ってそれは俺が力不足だからってことか!?」

「違う。お前が日本本社社長に就任するなら、つくしさんをお前の妻として世間に披露するのが先だ。」

「披露って…披露宴をして、つくしを公表しろってことか? でも、それは、」

「そうだ。そのためにはお前たちに子供が産まれなければならん。」

「子供は、俺はまだ考えてない。もっとつくしと二人で過ごしたい。」

「好きにすればいい。が、日本本社社長の妻が正式に世間に認められていないなんてのは看過できない。よって時期は未定だ。」

「だったらすぐにでも披露目をする。文句ないだろ」

「それは駄目だ。あのシキタリを破ることは俺が許さん。」

「なに言ってんだよ。俺の妻はあいつしかいない。そもそもあんたらがあいつがいいって連れてきたんだろ!? だったら子供なんて関係なく顔でも名前でも公表すりゃいいだろ!」

「司、お前にはあのシキタリの本当の意味が理解できていないんだな。」

「本当の意味?」


『妻の披露は第一子誕生後であること』


「あのシキタリを単なる封建主義的男尊女卑時代の残滓だとでも思ってるんじゃないだろうな?」

「……子供を持たないという選択肢が俺たちにあるとは思ってない。でもその時期を規定するのは時代遅れの錆び付いたシキタリだと思ってる。」

「フッ…ハッハッハッハ! 随分とはっきり言うようになったじゃないか。つくしさんはやはり俺が見込んだとおりの女性だったな。」


偀は立ち上がり、窓辺に寄った。
人を形づくる遺伝子は父と母から半分づつ分けられるはずだとすれば、偀から与えられた遺伝子は大半を容姿の形成に費やされたのだろうと司は思った。
撫でつけた髪はウェーブを描き、年齢を超越した肉体にはその美しさに隙なく沿うスーツを纏い、司より少し歳を取った顔には余裕のある笑みが浮かぶ。
しかし司が本当に欲しいのは父のそのメンタリティであり、能力だ。
カリスマ…父を超えるそれが欲しかった。


「俺は前に言ったよな? シキタリを守るも破るも後世への責任が生じる、と。そんな数々のシキタリを今も守るのは何のためだと思う? 道明寺家の存続と繁栄、そして一族の守護のためだ。」

「守護…?」

「お前の妻として、つくしさんの務めのひとつは後継者を産むことだ。お前の血を継ぐ子を産む。それがつくしさんが成さねばならない最大の責務だ。」

「それはわかってる。だから俺だっていずれはと思ってるさ。」

「甘いんだよ!」

「っ!!」


先ほどまで微笑を浮かべていた顔に、いまは黒豹が取り憑いていた。
司を睨みつける目は政敵を見るかのようなそれで、心の奥底まで見透かすかのようなその視線から逃れたいのに身動きできなかった。


「披露目を先にしたとして、道明寺家当主の妻にのしかかる後継者誕生の重圧から、お前はどうやってつくしさんを守るつもりなんだ? 道明寺司の妻だと公表されれば行く先々、会う人毎に言われるんだぞ。「後継者はまだか?」「妊娠は?」と。だから子供を産まないうちは妻を隠し、守る。あのシキタリの意味はそれだ。」


それは思ってもいない解釈だった。
あのシキタリにそんな意味があったのか?
むしろ子を成さないうちは受け入れないといような排他的なシキタリだと思っていたのに。

偀は窓辺から離れ、デスクの前に佇む司に寄った。
そしてその肩に手を置いた。


「司、つくしさんを愛したのなら道明寺を守ることの次に、彼女を守ることがお前の務めだ。彼女が子供を望まないのならお前の愛し方が足らないせいだし、お前が望まないのならお前の自覚が足りないんだ。どっちにしろ、そんな男に一国は預けられん。だがな、司、俺はお前に、俺以上の能力があると見込んでる。なんせお前には楓の血も流れてるんだからな。だから早く俺に追いつけ、追い越してくれ。」


それだけ言って偀はデスクに戻った。
司は考え込んだ顔をしていたが、やがて偀のオフィスを出た。




***




グランド・メープル・ニューヨークの2階にあるラウンジ個室でつくしはチーズケーキを前にして深く感嘆していた。

何、この芸術品は!

それは白い皿にチョコレートでメッセージが、ラズベリージャムとミントソースで花が描かれ、その中央に色付けされた生クリームで咲き誇るバラの花が乗ったベイクドチーズケーキが鎮座していた。


「美味しそう!」

「…お気に召していただけてよかったです。」


つくしの向かいに座る森川は、使用人人生で経験したことのない妙な緊張感と戦っていた。
なぜなら、森川の前にも同じ皿が給仕されていたからだ。
提案はしたが、もちろんつくし一人で食べるものと思っていたのに、「みんなで食べましょう? その方が美味しいから。」というつくしの言葉で3人でテーブルを囲んでいる。
主人と同席するなどあり得ない、あってはいけないと変な汗が額に浮かぶのがわかった。
しかし同じ皿を前にしている隣の岡村はクスクスと笑っていて、女というのはつくづく神経の野太い生き物だと森川はそちらのほうに感嘆した。


「さあ、いただきましょう!」


つくしの言葉で森川も岡村も「いただきます」と手を合わせた。
だが、さすがにつくしより先に手を付けるわけにはいかない。
つくしが一口目を口に運ぶ様子を二人は注視した。


「美味しーい!! かわいいし、きれいだし、美味しいし、すごいですね!」


ああ、奥様、5番街でもそのくらいの笑顔を見せてくだされば。
このチーズケーキを食べ終わったらどうしよう。
どこの何なら奥様の購買意欲を煽るのか。

とにかくなにか戦果の欲しい森川だったが、つくしの攻略は一筋縄ではいかない。


「森川さん、どうぞ召し上がって。」


悩む森川につくしから声がかかった。
しぶしぶ森川は濃厚なチーズケーキを頬ばった。


「奥様、この後はいかがなさいますか?」


同じくチーズケーキを食べながら、岡村がつくしに問いかけた。


「うーん、、、欲しいものもないんですよね。しかもあんな高級店、敷居が高いっていうか。」


いやいやいや!
あなたは道明寺夫人なんですよ!?
あなたが行かなくて他に誰が行くんですか!?

森川はめまいを覚えて眉間を強くつまんだ。


「でしたら、5番街でなくとも奥様の行きたいところに行きましょう。」


岡村がそう言ってニコリとほほ笑んだ。







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2020.07.02




シャワーを浴びた司が濡れた髪をかき上げながらバスローブ姿でリビングに降りてきた。
その後ろにはつくしが唇を尖らせて従っていた。


「着替え出したのに。司はいつもその格好で朝ご飯を食べるの?」


邸から来たメートルがつくしの椅子を引き、森川が司の椅子を引いた。


「ああ、だな。いつもはコーヒーだけだし。」

「朝ご飯がコーヒーだけ? お腹空かない?」

「別に。」

「ふーん…燃費がいいって言うかなんて言うか、よくそれであんな夜中まで働けるね。」


そこに通いの使用人が朝食の皿を給仕する。
アメリカ人のコックの作る朝食は、庶民的と言ってよかった。
皿の上に乗っているのはカリカリベーコン、豆の煮込みとハッシュドポテト、そしてお決まりのサニーサイドアップだ。
それらが皿の面積いっぱいに盛り付けられていて、つくしはなんだか嬉しくなった。
道明寺家の人間相手に気取らないコックの心意気が気に入ったのだ。


「これ、盛りすぎだろ。」


フォークで突きながら顔をしかめる司とは対照的に、つくしは何から手をつけるべきか、ワクワクした気持ちでそれらを眺めた。
それに、テーブルの上にあるのは皿だけではなく、バタートースト、フレンチトースト、クロワッサンといったパンや、数種類のジャム、そして彩のいいフルーツやヨーグルトもあった。
朝からお腹が何個あっても食べきれないと思うほど目移りしていたつくしだったが、やはりまずはバタートーストにサニーサイドアップ、つまり目玉焼きの黄身を乗せて食べることを選んだ。


「おいしっ! このバター、トリュフバターだ!」


つくしと食事を共にするのは2度目だ。
初めて共にしたあの料亭でわかっていたことだったが、やはりつくしは食べることが好きなようで、本当に美味しそうな顔をする。
その顔を見れば、司もなぜだか空腹を感じるような気さえした。
それでも目の前のアメリカ人らしいダイナミックさで盛り付けられた皿に手をつける気にはならず、司はコーヒーを手にした。


「つくし、今日も帰宅は遅くなるだろうから先に休んでていいぞ。」


もちろん本心では起きて待っていてほしい。
ペントハウスでエレベーターを降りて、エントランスの扉が開いて、一番最初につくしの顔を見て、抱きしめてその頬にキスがしたかった。
しかしその欲望は、つくしの顔に差した落胆を見て満たされた。
それは日本でNY出張を告げた時に欲しかった表情だった。


「そっか。わかった。もともとあたしを連れて来る予定じゃなかったんだから、こっちのことは気にしないで。でもご飯はちゃんと食べてね。」

「ああ…悪いな。」

「いいから! あー、今日は何しようかなぁ。」

「5番街でショッピングでもしてこいよ。森川に俺のカードを預けておくから、なんでも好きなものを買え。」

「え…カードならあたしも持たされてるから、いいよ。」


つくしが持っているのは言わばファミリーカードで、司と同じブラックのそれは、結局は司の口座から落ちる。
だからどっちを使おうが同じことなのだが、男にとっては同じではないらしい。


「いいから、俺のを使え! 森川、」

「はい。」

「聞いてただろ。今日は岡村といっしょにつくしに付き添ってやれ。」

「かしこまりました。」

「で、でもあたし、欲しいものとか特にないしっ。」

「見れば気が変わる。」


コーヒーを飲み終えた司は席を立った。


「お前はゆっくり食ってろ。森川。」

「はい。」


司は森川を従え、またメゾネット2階の寝室へ入って行った。









つくしと岡村、そして森川を乗せたリムジンは先ほどから5番街を周回していた。
しかしつくしは一向に車を止めない。
ただ車窓から店店を眺めるだけだった。


「奥様、少しでも目を引く店がありましたらすぐに車を止めますので、どうかご遠慮なさらずに。」


つくしの向かいに座る森川がそう促しても、「ええ、ありがとう。」と言ってつくしはただ景色を眺めるばかりだった。
これでもう何週しただろうか。
旦那様がああ仰ったからには、何か今日の戦利品の報告をしなければならない。
まさかこのまま何も買い物しないで帰ったりしたら、絶対に必ず不機嫌になる。
奥様の興味を惹くものが何か、何かないか??

そう思って森川は隣の岡村に視線を送ったが、昨日今日で代理侍女になった岡村にはつくしの嗜好はわからない。
岡村は戸惑い気味に小さく首を横に振った。

こんな時こそ島田さんがいてくれたらなぁ。
いや、島田さんがいない状況になったからこそ奥様は今、ここにいるわけだからな。
それにしても欲のない方だ。
ブラックカードを渡され、旦那様から何でも好きに買い物しろと半ば命じられたのに、それでも購買意欲が湧かないのか。

その時、つくしがため息をついた。


「あの、森川さん。」

「はい。」

「お店に入ったらやっぱり何か買わないとマズイですよね?」

「は? マズイ?…とは?」


主人が店に入って何も買わないという状況を目にしたことがない森川は、つくしの言わんとするところを瞬時に理解できない。
が、岡村は理解できたようで、森川の一瞬の間をついて口を開いた。


「左様でございますね。道明寺の名の手前、店側に相応の粗相がない限り、手ぶらで店を出るというのは考えづらいですね。」

「ですよね。ハァ…」


つくしがまた車窓に向いたので、森川と岡村は再び顔を見合わせた。

この奥様は、もしかして無駄使いができないタイプなのか?
欲しくもないものを買うことに苦痛を感じるとか?
まさか、そんな女性がいるのか!?
ましてや道明寺当主夫人にまでなり、金だけなら湯水の如く浪費したってなにも咎められない立場なのに。
そもそもこれだけの店構えが立ち並んでいるところで欲しいものが見つからないとはこれ如何に!??
これはますます困ったぞ。
何か奥様の食指を刺激できるものは…

森川は懸命に考えた。
頭の中でこの数ヶ月のつくしの情報を洗い直した。


「あっ!」

「え? 森川さん、どうしたんですか?」


突拍子もなく声を上げた森川につくしも岡村も振り向いた。


「あ、いえ、失礼しました。奥様、そろそろティータイムはいかがですか? この先のグランド・メープルに美味しいチーズケーキを作るパティシエがおりますよ?」

「チーズケーキ!? はい! 行きましょう!」


先ほどまで困り果てた様子だったつくしの顔が一気に明るくなった。

やっぱりこれか。
島田さんが言ってた『花より団子』ってのは本当だな。
とりあえず目的ができてよかった。

一行はグランド・メープル・ニューヨークに進路を取った。








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2020.07.01




菱沼の読み通り、もともとタイトだった司のスケジュールが縮まることはなく、司が帰宅したのは23時をとうに回った時刻だった。
時差ボケまではいかないが、さすがに疲労の濃さは隠せない。


「おかえりなさい!」


それでも起きて待っていたつくしが森川や岡村と共に笑顔で出迎えてくれれば疲れなど吹き飛んだ。


「ああ、ただいま。」


帰ってすぐに妻を抱きしめる。
これ以上の至福があろうか。


「ちょっと、人前だよ。離してって。」


照れて逃げようとするつくしの肩を抱いてリビングに向かう。


「人前って、森川たちしかいねぇじゃん。」

「その森川さんたちの前だって言ってるの。」


交際期間もなく、夫婦らしく暮らしたこともないつくしは、使用人といえども人前でのスキンシップを羞恥心が邪魔をして素直に受け入れられない。
対して使用人は空気のような存在として生きてきた司には、つくしが彼らを気にする気持ちがわからなかった。


「あ、司、先に手洗い、うがいをして。」

「はぁ?」

「外から帰ってきたら手洗い、うがい。これ社会人としての基本だから。」

「聞いたことねぇ。」


と、司は森川に振り向いた。
森川は奥様に従ってください、という視線を寄越した。


「チッ、どうせすぐにシャワー浴びるのに面倒くせ。」

「いいから、ほら!」


つくしはリビング手前のパウダールームの扉を開けた。
そこにはハンドウォッシュとうがい用のグラスが置かれていた。


「旦那様、これが結婚というものです。」


森川の言葉に、司は渋々従った。








「旦那様、それでは私どもはここで。おやすみなさいませ。」


2階の寝室の入り口で森川と岡村はそう言って礼をした。


「は? 俺の着替えは?」

「それは大丈夫! 昼間、森川さんから教えてもらったから。お二人、お疲れ様でした。ゆっくり休んでくださいね。」

「はい、奥様、ありがとうございます。明日は朝8時半に迎えが参りますので。」

「わかりました。」


つくしが笑顔で階段を降りていく二人を見送った。


「お前が森川の代理をするのか?」


寝室に入りながら司は機嫌の良い妻に問いかけた。


「うん、そう。クローゼットが寝室の中にあるでしょ? 森川さんが、今回はあたしが同行してるから自分はあまり入らない方がいいんじゃないかって仰って。それでいろいろ教えてもらったの。ほら、上着脱いで。」

「そんな、使用人のマネなんてしなくていいじゃねぇか。」

「失礼ね。使用人のマネじゃなくて、「本物の夫婦」ごっこよ。」


つくしは司に手渡されたジャケットを森川に教わった通り、ランドリースペースに掛けた。
ここに収納されたものは翌日、ランドリーやクリーニングに回されることになっている。


「本物の夫婦『ごっこ』?」

「そう。日本では味わえない、一般人の夫婦みたいに過ごすこと。ずっとじゃないし、全部じゃないから『ごっこ』。」


この言葉が司は腑に落ちない。

『ごっこ』ってなんだよ。
まるで俺たちは本物の夫婦じゃないみたいじゃん。

しかしそんな違和感も、つくしの一言で消え失せる。


「さあ、シャワー浴びてきて!」

「お前もまだだろ? 一緒に入ろうぜ。」

「えっ、いいよ、あたしはゲストルームで浴びるから。ちょっ、やだっ! やだやだっ」

「なんか前にもこんなことあったよな。ハハハッ。」


いくら抵抗しようとも、司がその気になれば結局は拉致され、剥かれ、翻弄されるのがつくしの宿命だった。






バスルームで繋がり、ベッドに入って繋がる。
不安が消え去り、心の重石の取れたつくしは素直に快楽に身を任せるようになり、以前の強張りが嘘のように潤い、司に身を委ねた。
そんな乱れるつくしが愛しくて仕方がない司は、なかなかつくしを放せない。


「つ…かさ、明日も早いんだよ? もう寝ないと…あっ、やっ!」

「グチャグチャに濡らして俺を欲しがってんのはお前だろ?」

「そんな、あっ…ンンッ! 司がやめてくれないから…あ…あ…」

「今夜はこれで最後にする…つくし」

「はっ…ぁ…つかさっ」


つくしの潤いが増すごとに、司の快感も深くなる。
そうして深みにハマって抜け出せなくなっているのは司の方だった。




***




渡らずとも会えて、抱けて、そのまま眠れる。


「司、起きて。司。」


そして朝は愛する女に起こされて1日が始まる。

これが結婚か
これが幸せか

声がする方に腕を伸ばすが、それは冷たいシーツを撫でるばかりで、目的の温かい体は捉えられない。
そのうちに、右から聞こえた声が左に移動し、今度はすぐ耳許で司を呼ぶ鈴のような声が聞こえた。


「司、朝だよ。一緒に朝ごはん、食べよ?」


だから司はまた声のするほうに腕を伸ばし、柔らかな体を巻き込むように引き寄せた。


「ちょっと! 寝ぼけてないで、起きなさい!」

「寝ぼけてねぇよ。」

「だったら、離して! 服がシワになっちゃう。」


司がうっすらと目を開けると、ベッドに引き摺り込んだ妻はすでに身支度を整えていた。
今日はタートルネックのノースリーブコットンニットにAラインのスカート姿だ。
つくしの首の痣は消えるまで1週間と診断が下っており、そこに司に刻まれたキスマークが加わって、首を隠すアイテムが必要だった。


「ンだよ、つまんねー。一緒にシャワー浴びようかと思ったのに。」

「そんなわけないでしょ。さ、早く起きてバスルーム入って!」

「キスしてくれたら。」


つくしが腕の中で身をよじるが、この檻から出られるはずもない。


「司って、そんな甘えるタイプだったんだ。新発見。」

「何言ってんだよ。むしろお前は俺のことなんてまだまだ何も知らないぞ。」


笑っていたつくしの表情がスッと真顔になった。


「そうかもしれないね。だって、夜しか会わないもんね。」


その言葉に咄嗟に返事ができずに詰まっていると、ほっそりとした指先が司の頬をスッと撫でた。


「ホントだ、また発見。司も朝になったら髭が伸びるんだね。」


さっきの顔は見間違いかと思うほど、つくしの表情はまたクスクスと笑いを漏らす笑顔になっていた。


「で、キスは?」

「え!? 本気?」

「当たり前だろ。ほら。」


そう拗ねたように尖らせた唇を外し、その端につくしはチュッと口付け司の腕から逃れた。


「さ、約束だよ。起きてね。」

「ケチ」


ベッドを離れ、クローゼットに入ろうとしたつくしはドアの前で立ち止まり、やっとベッドの上で起き上がった司を振り向いた。


「司だってあたしのこと、まだ何にも知らないよ。きっとね。」


そう意味深な言葉だけを残して、つくしは入って行った。


「そうかもな…」


司は、わだかまりの溶けた今、やっと自分たち二人がスタートラインに立ったような気がしていた。
道明寺家の氏神の前で行った契りは、あの時点では単なる形骸的なものでしかなく、カタチだけでは本物の夫婦にはなれないと学んだ数ヶ月だった。
しかし今はお互いが同じ温度で求め合い、満たし合っていると実感できた。
これが夫婦だ、そしてこれからはもっともっとその関係を深めていけばいい。
そんな思いに司は充足感を覚えた。








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2020.06.30
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